私のオオカミ少年

2013/04/17 東映第1試写室
孤独な若い女性が山間の村で奇妙な少年と出会う……。
嘘つき少年の話ではありません。by K. Hattori

13041701  1960年代半ばの韓国。スニは会社経営者だった父親が急死したことから、父の知人の紹介で母や妹と共に田舎の一軒家に引っ越すことになった。スニは病気がちで、その療養もかねての転居だ。だが彼女はその家に、自分とあまり年の違わない浮浪児が住み着いているのを見つける。ぼろぼろの服をまとい言葉も喋れない野生児のような少年だが、養護施設もすぐには引き取れないという。少年はチョルスと名付けられて、受け入れる施設が見つかるまでスニの家族と一緒に暮らすことになった。チョルスは少しずつ家族に馴染み、人間らしい振る舞いを見せるようになっていくのだが、彼にはある大きな秘密があった……。

 マッドサイエンティストの生み出した半人半獣のオオカミ少年と、父親を失った薄幸の少女の交流を描くファンタジックなラブストーリー。一言でいうなら、これは韓国版の『トワイライト』だ。慣れない土地に引っ越してきたティーンエイジャーのヒロインが、自分に好意を寄せる同じ年頃の男性に出会って恋が芽生える。『トワイライト』はその相手がヴァンパイアで、恋のライバルとして登場するのが狼男。『私のオオカミ少年』は、相手が生体実験によって生み出された狼男ということになっている。しかしこの恋の相手が、ヒロインに一途な愛を捧げるという点は同じ。他にもこの映画には、過去のマッドサイエンティストものや、人間とそうでない存在との恋愛ドラマなどの要素が散りばめられていて、物語を構成している材料自体は古めかしくて手垢のついた印象を受ける。軍が関与した生体実験でスーパーパワーを持つ子供が生まれるなんて、まるで『炎の少女チャーリー』(1984)ではないか。1980年代のB級SF映画で育った人間には、なんとも懐かしい世界だ。

 『トワイライト』との一番の違いは、この映画からセックスの要素が排除されていることだろう。登場人物たちの年齢は明示されていないが、ヒロインのスニを演じたパク・ボヨンは1990年生まれで、オオカミ少年のチョルスを演じたソン・ジュンギは1985年生まれだからどちらも立派な大人だ。時代背景が今から半世紀近く昔に設定されているとは言え、この年齢になれば性の問題と無縁ではいられない。物語の中でもスニは父の知人の息子から結婚を迫られている状態で、既に彼女が性の対象になっていることが明確になっている。しかしチョルスは彼女を性の対象として見ることはない。この映画の中では、彼女を性の対象とする男が悪役で、彼女を性の対象とすることがないチョルスがヒーローなのだ。満月の夜に変身する狼男は、本来なら人間社会が隠蔽してきた野生の象徴であり、そこにはセックスのエネルギーが充ち満ちているはず。しかしこの映画のオオカミ少年は、セックスの面ではまったく去勢された状態になっている。しかしこれは映画の弱点ではない。これこそ作り手の意図であり、戦略なのだ。

(英題:A Werewolf Boy)

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5月25日公開予定 新宿シネマカリテ、109シネマズ川崎
配給:CJ Entertainment Japan 宣伝:Prima Stella
2012年|2時間5分|韓国|カラー|ビスタ|5.1chサラウンド
関連ホームページ:http://ookami-shounen.jp
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