ベルヴィル・トーキョー

2013/02/28 京橋テアトル試写室
夫に突然「別れたい」と言われて戸惑う妻の物語。
このカップルにまったく共感できない。by K. Hattori

13022801  妊娠中のマリーはパリ市内の名画座で働きながら、映画評論家の夫ジュリアンと暮らしている。だが仕事でヴェニスに出張に出かける夫が、何の前触れもなく突然別れ話を切り出す。「向こうに好きな人がいるんだ」と言い残して立ち去るジュリアン。だが別れると言った夫はいざ別居した途端、マリーに許しを請うて彼女のもとに戻ってくる。なぜ浮気をしたのか、なぜ別れたいのかを問い詰めても「わからない」と言うばかりで話にならない。かつては絶対的な信頼感で結ばれていた夫との関係は、もはや修復不可能だ。しばらくすると、夫はまた海外出張に出かけることになる。行き先は東京だ。出張先の東京から、頻繁にマリーに電話をしてくるジュリアン。だがそのしばらく後、マリーは東京出張中のジュリアンをパリ市内で見かけて後を付ける。彼が向かったのはパリのアジア人街ベルヴィル。彼はこの街に身を隠しながら、マリーに対して東京出張を装って電話をかけていたのだ。

 フランスの女性監督エリーズ・ジラールの長編劇映画デビュー作で、ヒロインのマリーがパリ市内の名画座に務めている設定などは、監督自身の体験をベースにしているらしい。映画の内容は男と女の恋の駆け引きや三角関係、結婚と妊娠、嘘と疑惑など、恋愛映画の要素があれこれ詰め込まれている。しかしこれは他人同士だった男女が出会って結ばれる話ではなく、夫婦だった男女が別れるまでの物語。こういう話もラブストーリーの一変種ではあるのだが、物事がネガティブな方向に進むため観ていて楽しくない。普通のラブストーリーなら主人公たちが絆や信頼感を深めるところで、絆は断ち切られて不信感が際立ってくる。普通のラブストーリーならどんなにハラハラドキドキしながらも、先に訪れるであろう「幸せな時間」に期待をつないで観続けることができる。でもこの映画にはそうした「幸せな時間」が訪れそうにない。ひたすら後ろ向きで、気が重くなるばかりなのだ。

 ヒロインが名画座で働いていて、夫は映画評論家として世界中の映画祭を飛び回っているという設定なのだから、この部分を膨らませれば映画ファンにも興味の持てる楽しい映画になっただろう。だが映画の中ではこうした要素が登場人物たちの背景として描かれるだけで、あまり前面に出てこない。またこの映画では主人公たちがどう知り合って、どんな経緯で結婚に至り、これまでの生活がどうだったのかという話もない。夫の行動もよくわからないし、彼の気持ちも理解できない。要するにこの映画には、観客の共感や感情移入を誘うような仕掛けと仕組みがまったく用意されていない。

 同じストーリーでも見せ方や語り口にいよって、もっとわかりやすい映画が作れたと思う。だがこの映画はそうした道を選ばなかった。でもこれは失敗だったと思う。人物とこのぐらいの距離を取った映画も、コメディなら十分に面白い映画として成立しそうだが……。

(原題:Belleville-Tokyo)

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3月公開予定 渋谷シアター・イメージフォーラム
配給:マーメイドフィルム 宣伝:VALERIA 配給協力:(社)コミュニティシネマセンター
2011年|1時間15分|フランス|カラー|1.85:1|DTS
関連ホームページ:http://mermaidfilms.co.jp/ffnw/
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