百年の時計

2013/02/25 京橋テアトル試写室
香川県高松市を舞台にしたノスタルジーとファンタジー。
金子修介監督の不思議な世界。by K. Hattori

13022502  高松市美術館の学芸員として働く神高涼香は、同市出身で世界的な現代美術作家・安藤行人の回顧展を企画して本人からも了解を得る。回顧展の目玉企画は、最近あまり新作を発表しない行人の新作発表。だが打合せのため高松を訪れた行人は、前言を翻して回顧展にあまり乗り気ではないと言い出す。突然の本意に驚く涼香の前に突き出されたのが、行人愛用の懐中時計。これは彼が若い頃、東京で本格的な美術の勉強をするため高松を出て行く際、駅で出会った見知らぬ女性から受け取ったものなのだという。「この時計を譲ってくれた女性を探してほしい。もし彼女が見つかれば、わたしの創作意欲も復活するかもしれない」。これを自分に対する挑戦と受け取った涼香は、さっそく時計の来歴を調べはじめる。だが難航するかと思われた元の持ち主探しは、あっけなく解決してしまう。じつは行人に時計を譲った相手は、彼にとって見ず知らずの相手ではなかったのだ。行人は涼香に、懐中時計を巡る若き日の恋物語を語り始める……。

 金子修介監督の新作は、香川県高松市を舞台に、100年という時を駆け巡る時空を超えたラブストーリー。といってもSF映画というわけではない。100年前に作られた鉄道用の懐中時計を振り出しに、老アーティスト安藤行人の恋愛と、安藤の過去を探る涼香の恋愛が同時進行し、そこに行人の新作アート制作や、涼香と父の確執と和解などがからんでいく構成だ。高松が舞台の「ご当地映画」だが、ご当地色があまりないのが難点と言えば難点。監督も脚本家も出演者のほとんども香川県出身者ではなく、映画に登場する「ことでん(高松琴平電気鉄道)」や現地ロケ以外にこれといって高松らしさや香川らしさというものがないのだ。せっかく香川でロケしているのだし、もう少しローカル色があってもよかったと思う。台詞の中にちょっとだけ方言を使ってみるとか、食べ物、飲物、街の風景、何かしらやりようがあったと思うのだ。行人を演じるミッキー・カーチスや、涼香の父を演じる井上順から、その場で暮らしている人のニオイが感じられればよかったんだけどな……。

 そんなわけで映画としてはあまりしっくり来なかったのだが、このちぐはぐな感じが映画終盤でプラスの方向に作用する。ことでんの車内を利用して100年の時間を旅するインスタレーションで、次々に時間と空間が移行していくちぐはぐな雰囲気が、映画自体のちぐはぐさと上手く噛み合って奇妙なリアリティを生み出すのだ。こうした不思議なことが起きるのが、映画の面白さ。これが意図的なものなら名演出だが、意図したものかそうでないのかわかりにくいのが、金子修介監督の不思議なところでもある。この雰囲気は金子修介の初期作品『1999年の夏休み』や『毎日が夏休み』に相通じるものだ。映画でしか味わえない瑞々しさが、映画の中にぎっしりと詰め込まれている。

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5月25日公開予定 テアトル新宿、テアトル梅田(6月公開)
配給:太秦、ブルー・カウボーイズ(香川県)
2013年|1時間45分|日本|カラー|HD(16:9)|5.1ch
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