ダークホース

〜リア獣エイブの恋〜

2013/02/12 京橋テアトル試写室
「やればできる」と言われて育った35歳男のダメ人生。
身につまされすぎて涙なくしては見られない。by K. Hattori

Darkhorse  子供に「やればできる」と言うのは、何もできない子にとって最高の慰めの言葉であり、同時にその子供をとことん堕落させる悪魔の囁きでもある。周囲の大人(両親や教師)は「やればできる」と言うことで、その子が「だからやろう」と奮起することを期待しているのだろう。まあそういう子供もいるに違いない。いやおそらくほとんどの子供は、「やればできる」と言われてその気を出すのだ。だがごく稀に、「やればできる」と言われて何もやらない子供が現れる。「やればできる」のだから、本当にやらなければならない時にやればいいのだ。今はまだその時じゃない。能ある鷹は爪を隠すと言うではないか。大器晩成という言葉もあるではないか。「やればできる」のだ。自分には秘めた才能があるのだ。やるとなったら誰にも負けないのだ。だから今はやる必要がない。自分の実力は、やらなければならない時のために取っておこう。そうしていざという時に自分は実力を発揮して、周囲をあっと驚かせてやればいい……。

 はっきり言って、これはアホである。こういうアホな子供は、いざという時になってもどうせ何もやらないのだ。「やればできる」を、自分が何もやらないことの言い訳に使う時点で、この子の将来はたかが知れている。こいつは永久に何もやらず、何事も中途半端なまま中途半端な大人になり、大人になっても「やればできる」という言葉で自分をごまかし続ける。自分はやればできるのに、それができないのはその機会がなかったのだ。運が悪かったこともある。いろいろと妨害する連中も多いしね……。そうやって周囲に責任をおっかぶせて自分を守ろうとする。繰り返すが、これはアホである。救いようがないバカ者である。だが僕はそういうアホでバカな人間を知っている。他ならぬ僕自身がそうだったのだ!

 というわけでこの『ダークホース 〜リア獣エイブの恋〜』を、僕はまるで自分自身を見るような目で眺めていた。

 主人公エイブは、何もできない男だ。大学を中途で投げ出し、父親の会社を手伝っていても半端なことしかできない。30代半ばになっても両親と同居し(アメリカではこの時点でもうダメなことは確定的)、金は大型車とフィギュアに注ぎ込んでいる。そんなエイブが、友人の結婚式で出会ったミランダに一目惚れ。彼女を強引にデートに誘い、その日にいきなりプロポーズ。「俺は子供の頃からダークホース(穴馬)と呼ばれていた。最後まで脚をためていて、ゴール間際に追い抜くのが俺の生きざまさ」などとうそぶく様子がちょっとお寒い……。ついでに頭髪もだいぶお寒い……。その後彼は、自分自身の言い訳だらけの人生が生み出したものに、否応なしに向き合わされることになる。

 ミランダ役のセルマ・ブレアは相変わらず上手く、両親を演じたミア・ファローとクリストファー・ウォーケンが抑えた渋い演技で映画を引き締める。

(原題:Dark Horse)

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3月2日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:トランスフォーマー
2011年|1時間24分|アメリカ|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://darkhorse-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
輸入盤Blu-ray:Dark Horse
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