天使の分け前

2012/12/26 京橋テアトル
スコットランドのグラスゴーを舞台にした青春群像コメディ。
監督はケン・ローチなのでそれなりに硬派。by K. Hattori

Angels_share  映画『トレインスポッティング』の舞台にもなった、スコットランド最大の都市グラスゴー。暴力が日常になっている環境に生まれ育ち、子供の頃から何度も警察の厄介になってきた青年ロビーは、恋人との間に子供ができたことをきっかけに、今度こそ生活を建て直したいと願う。だがそんな矢先またしても暴力事件を起こして、裁判所から命じられたのは300時間の社会奉仕だった。彼がそこで出会ったのは、同じ社会奉仕を命じられて現場に集まった同世代の若者たちと、現場の監督官をしている中年男ハリー。ハリーはロビーの境遇に理解を示し、まるで息子にでも接するように親身になって相談に乗ってくれる。だが恋人父はロビーと娘の関係を認めず、手切れ金をやるから娘や子供と別れてロンドンにでも行けと圧力をかけてくる。以前からもめ事の絶えないチンピラ連中も、事あるごとにハリーにちょっかいを出してくる。このまま暴力事件にでも発展すれば、今度こそロビーは刑務所行き決定だ。ロビーが煮詰まっている様子を見て、ハリーは彼をウィスキー蒸留所の見学に連れ出す。だがこのことが、ロビーの人生を大逆転させるきっかけとなるのだった……。

 イギリス労働者階級の物語を得意とするケン・ローチ監督の新作は、昨年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した青春ドラマ。描かれている世界の現実は厳しいが、エピソードはどれもユーモラスで、時にクスクス笑ってしまうようなものもある。主人公ロビーを演じたポール・ブラニガンは演技経験ゼロの素人だが、とてもそうとは見えない堂々たる演技。体格は小柄だが、風貌や物腰にカリスマ性があって、社会奉仕で出会った仲間たちのリーダーになっていく様子に説得力がある。ハリーを演じたジョン・ヘンショーや、怪しげなウィスキー・コレクターを演じたロジャー・アラムといったベテランに、ブラニガンの固い芝居を受け止めさせるあたりはアンサンブルの妙味。劇中でスコッチウィスキーの世界的権威を演じているのは、実際にスコッチの権威であるチャーリー・マクリーン。出演場面は短いが、本物の醸し出す雰囲気というものがある。

 ワイン愛好家が出てくる映画は多いし、その存在は日本でも広く知られているが、スコッチウィスキーについても同じような世界があることはあまり意識されていないと思う。この映画には、そうした「知られざるスコッチウィスキーの世界」が描かれているのが面白い。タイトルになっている『天使の分け前』は、蒸留酒を貯蔵熟成中に樽から蒸発して目減りして行く部分のこと。この映画を観た人は、この言葉を二度と忘れないはずだ。劇中には蒸留所の見学シーンがあって、ウィスキーの仕込みから仕上げまでの様子が疑似体験できるし、スコッチ愛好家がスコットランドの民族衣装キルトを身に着けて蒸留所を訪問するなど、映画を通して初めてお目にかかった場面も多い。映画を観終わると一杯飲みたくなる。

(原題:The Angels' Share)

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4月13日公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:ロングライド 宣伝:ムヴィオラ
2012年|1時間41分|イギリス、フランス、ベルギー、イタリア|カラー|アメリカン・ビスタ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://tenshi-wakemae.jp
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