グッモーエビアン!

2012/11/29 ショウゲート試写室
なさぬ仲の父と娘が繰り広げるロックな青春の日々。
名古屋を舞台にした異色ホームドラマ。by K. Hattori

Gummoevian  吉川トリコの同名小説を、麻生久美子と大泉洋主演で映画化したヒューマンコメディ。同じ原作は2007年にも「なごや寿ロックンロール〜『グッモーエビアン!』より〜」というタイトルで単発ドラマになっているらしい。(その際はオセロの中島知子と袴田吉彦が主演だったとのこと。)名古屋を舞台にした変化球のホームドラマで、ほんのりと香るローカルなムードが映画のアクセントになっている。

 物語の語り手となるのは、受験や進路に悩む女子中学生のハツキ。母のアキは17歳で彼女を生んでシングルマザーとなったが、口癖は「ロックだね〜」と「ロックじゃないね〜」だ。今は会社勤めのアキだが、この口癖からもわかるとおり、若い頃にパンクバンドのギタリストとしてパワフルな演奏をしていたらしい。ハツキが生まれる頃から、アキにとっては恋人みたいな、ハツキにとっては父親みたいな男がいる。ヤグと呼ばれるその男はアキと同じバンドのボーカルで、ハツキの実の父ではないが、恋人と別れてたったひとりでハツキを生んだアキに寄り添い、これまで家族のように一緒に生きてきた。だがそのヤグが2年間の海外放浪から戻ってきたとき、ハツキは素直にヤグの存在を受け入れることができない。母アキとヤグは何も変わっていない。でもその変わらない姿が、なぜかハツキを苛立たせる……。

 完全な自由人であるヤグのキャラクターがかなり特異なものなので、ここに描かれている家族の姿は相当風変わりなものになる。しかしこれが単に「ヘンな人たち」の話にならないのは、映画に描かれている人間の気持ちに普遍性があるからだ。ヤグやその存在を許す母アキに対するハツキのいら立ちは、思春期特有の反抗期みたいなものだ。子供として大人たちに庇護されている存在から、自分ひとりで生き方を決めなければならない時期に差し掛かっている人間が、誰しも通り過ぎていく子供時代への決別の儀式なのだ。これは映画の中で、ハツキに対する進路相談という形でより明確に描かれている。自己のアイデンティティを確立していく過程で、周囲の人たちとの距離感に戸惑うのも思春期の特徴。これは劇中で、ハツキが親友トモちゃんと仲違いをするエピソードとして描かれる。人はこうした周囲との葛藤を経て、大人になっていくのだ。

 考えてみれば、アキとヤグはこうした青春期の通過儀礼を経ないまま大人になってしまった人たちだ。10代で若い母親として生きることを選んだアキと、まだ中学生であるにも関わらず、そんなアキと一緒に生きていこうと決めたヤグ。彼らは大人になるための通過儀礼を経ないままいきなり大人になってしまったがゆえに、考えも行動も子供っぽいところがあるのかもしれない。アキとヤグは娘のハツキが悩み苦しみながら成長するのに合わせて、彼ら自身もまた少し大人になるのだ。子供を育てることで、大人は一人前になる面もあるのだろう。

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12月15日公開予定 テアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート 宣伝:PALETTE
2012年|1時間46分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://gme-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:グッモーエビアン!(吉川トリコ)
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