少女と夏の終わり

2012/10/25 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART)
何も事件がないように見える山里に充満した不穏な空気。
中学生の少女たちの成長を描いた青春映画。by K. Hattori

25tiff  かつて林業で栄えた山奥の小さな村。しかし外国材に押されて林業は衰退し、今では製材所も1箇所しか残っていない。製材所の一人娘である薫は、通っている中学で男子生徒の誰もが憧れるクラス一番の美少女。だが彼女は男たちに見向きもしない。彼女の一番の仲良しは、同じクラスの瑞樹なのだから。だが最近は瑞樹の様子が少しおかしい。理髪店の一人娘である瑞樹には年の離れた姉がいた。だが今から10年ほど前、行きずりの男に暴行されて殺されてしまった。姉が殺されたのと同じ年頃になり、瑞樹は自分の身体が少しずつ女らしくなっていることに恐れを抱いている。周囲の男子生徒の中には、自分を「オンナ」として見る者たちもいる。それが彼女にはたまらなく嫌なのだ。同じ頃、森の中で進行する木々の異変を調査するため、東京の大学から女性研究者が村を訪れた。村では村会議員選挙の投票が間近に迫り、温泉ランド建設を訴える候補者の車がひっきりなしに行き来する。村は少しずつ変わりつつあった……。

 思春期の少女のが迎える体と心の大きな成長と戸惑いを、小さな村を舞台に描いた青春ドラマ。山間部の村と言うと、のどかな農村風景があり、いつの時代も変わらない村人たちの暮らしが守られているかのように思いがち。しかしこの映画はそれとは正反対に、小さな村を「激変する風景」として描いているところがユニークだ。小さな村では主力産業の衰退という変化がある。地域再開発を訴える選挙候補者がいる。噂話のネットワークでがんじがらめになっている村人たちの共同体は、ほんの数人の部外者が入り込んできただけで大きく動揺する。部外者には悪い噂が付いて回る。10年前に起きたレイプ殺人事件。製材所にまつわる悪い噂。小さなネガティブ情報は、尾ひれをつけて人の口から口に伝わり、村人たちを大きく動揺させる。枯れて行く山。里まで出てくる熊。何も変わらないように見えて、村は激しく揺れ動いている。少女たちはそんな環境の中で大人になっていくのだ。

 大人と子供の狭間にある少年少女が持つ、繊細で危うい感じが丁寧に細かく描かれている。だがそれに比べると、村の大人たちが織りなすドタバタは大ざっぱすぎてまるで漫画だ。これはこのぐらい大ざっぱに描いておかないと、話が深刻になりすぎて終盤で取り返しが付かなくなるという判断かもしれない。しかしこれはバランスが悪く、観ていてどうしてもチグハグな印象を受けてしまった。地方議会選挙に、山林の枯死に、製材所の従業員の悪い噂など、1時間半の映画に要素をいろいろ詰め込み過ぎなのではないだろうか。山林の枯死とレジャーランド開発の対比でダイナミックな構成にはなっているが、これはどちらか一方を削ってもよかったかもしれない。選挙の話がなくても、大人へと成長して行く中学生と衰退する林業の対比は可能だったと思う。

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10月22日・26日上映 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
配給:不明
2012年|1時間31分|日本|カラー
関連ホームページ:http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=133
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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