あかぼし

2012/10/24 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(PREMIUM)
父の失踪をきっかけに宗教にのめり込む母と子の物語。
人はいつでも何かに依存して生きる。by K. Hattori

25tiff  夫が突然失踪して以来、精神的に虚脱状態になってしまった佳子。小学生の保はそんな母を間近にしながら、どうすることもできないでいる。母の妹からは「男の子のあんたがお母さんを守らなきゃ」と言われているが、小学生の保に一体何ができるのだろうか。やがて佳子はキリスト教系の新宗教に勧誘され、集会に出席するようになる。「苦しみは人間の罪に対して神が与えた懲らしめなのです」と言う長老の言葉に佳子は救われ、夫の蒸発以来荒んでいた生活も改善していく。佳子は保と戸別伝道に出るようになり、次々と新会員を獲得して教団の機関誌にも取り上げられるほどになる。母子の生活は充実し、保も幸せだった。だが佳子の勧誘で教団に加入した新人が戸別勧誘で目覚ましい成果を上げるようになると、佳子は集会内部で自分の居場所が奪われたような気がする。焦燥感から再び荒れてくる生活。ようやく見つけた自分の生きがいを奪われまいと、やがて佳子は思いがけない行動に出るのだが……。

 Yahoo!知恵袋などで時々見かける質問に、「結婚を約束している彼女が新興宗教に入信している。このままでは結婚できないので脱会させたい」というものがある。しかしこれは非常に難しく、手っ取り早い現実的な対処法としては2つしかないのだ。ひとつは相手と別れてしまうこと。もうひとつは自分も相手と同じ教団に入って、相手と同じ信仰を持つこと。外部から見てどんなに荒唐無稽な宗教も、その中に入って頭から信じ込めばそれなりの幸せを約束してくれるものだ。しかし信じようと努力しても、どうしても信じられないものだってある。この映画の主人公は小学生の少年だ。彼は母の入信した宗教団体の教えを信じることができないが、だからと言って母と別れてしまうという選択肢は存在しない。彼は何とか自分の気持ちと折り合いをつけながら、母と一緒の生活を守り続けるしかないのだ。

 映画が描こうとしているのは、目の前の現実の苦しさから逃れるために宗教に依存する母と、それによって崩壊する家庭環境。それでも母親から逃れることができず、ますます苦しい環境へと追い込まれていく子供の姿だ。苦しみから逃れて依存する対象は、ひょっとすると宗教でないなら別のものでもよかったのかもしれない。例えば母親を麻薬依存症にしても、同じ話は作れたような気がする。しかし依存する対象を宗教にすると、そこに「悪意」が存在しないだけに、主人公たちの葛藤が際立ってくる。依存対象が麻薬なら「麻薬は悪だ!」と相手を悪者にできるが、宗教の場合はそうはいかない。少なくともこの映画に登場する宗教団体は、信者を洗脳するカルト教団ではない。しかし教団とその信者たちの「善意」が、かえって主人公たちを追い詰めていく。長老夫婦と娘のエピソードも、教団の「善意」を裏付けるものだろう。上映時間は2時間20分。見応えのある映画だった。

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10月23日・25日上映 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
配給:不明
2012年|2時間20分|日本|カラー
関連ホームページ:http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=127
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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