009

RE:CYBORG

2012/10/11 アキバシアター
石ノ森章太郎原作の「サイボーグ009」最新作なのだが……。
リブートでも続編でもなく、いきなり完結編? by K. Hattori

009recyborg  石ノ森章太郎の「サイボーグ009」が最初に雑誌に掲載されたのは、今から半世紀近く昔の1964年(昭和39年)のことだった。その後この作品は掲載誌を転々と変えながら、手塚治虫の「火の鳥」にも匹敵するような石ノ森章太郎のライフワークとなって行く。しかし作家にとってのライフワークの常で、この作品の完結編はついに描かれることなく終わった。(本当のことを言えば1966年に一度終わったのだが、作品の人気が高かったことから続編を描くことになり、そのまま終わることができなくなってしまったのだ。)著者自身は晩年に完結編の準備をしていたとされ、今年になってその準備のためのメモをもとにしたと称する小説やコミック作品が発表されているが、それがこれまでの009のファンを十分に満足させることのできる完結編になることはないだろう。ファンというのは、そういうものなのだ。

 映画『009 RE:CYBORG』は、前記した「サイボーグ009」の完結編とは別の経路で生まれた、009の新しい完結編だ。この映画の原型は、2010年10月に「CEATEC JAPAN 2010」で発表された押井守監督による3D短編アニメ『009 RE:OPENING』だ。今回の映画はその長編版と言って構わないと思う。監督は押井守から神山健治にバトンタッチしているが、世界観は短編版の延長だし、台詞がやたらと長くて理屈っぽいとか、細かなディテールにこだわるとか、やっていることは押井守タッチ。サイボーグ戦士たちと戦うプロテクター装備の兵士たち(死体から作られたユニバーサル・ソルジャーみたいな奴ら)は、『ケルベロス-地獄の番犬』や『人狼 JIN-ROH』に似ている。要するにアチラもコチラも、まったくの押井ワールドなのだ。

 キャラクターデザインまで一新して挑んだ009の新作だが、僕自身はこの映画にひどく不満を感じる。リブート作品ではないので過去の009作品を知らない人には取っつきにくいし、物語はあちこちに伏線を張って世界観を大きく広げたくせに、その世界からサイボーグ戦士たちを排除して終わってしまったように思う。そもそもこの映画、サイボーグ戦士たちそれぞれにそれ相応の見せ場を作ってやるという、最低限のハードルさえクリアできていないではないか。ピュンマ(008)はサイボーグらしいことを何かやったのか? サイボーグ戦士たちは、この映画の中で人間を誰かひとりでも救ったか? 激変する世界の中で、サイボーグたちは自分たちの役目や置かれた位置がわからないまま、内輪もめをしているだけではないか。世界は大きく広がったが、物語は内に閉じこもって小さく自滅して行く。

 この映画を評価する人も、ひょっとするといるのかもしれない。しかし僕はこの映画にガッカリしてしまった。僕はこの結末に満足できないし、納得もできかねる。おそらく僕も、009ファンのひとりだったということなのだろう。

Tweet
10月27日公開予定 新宿バルト9、TOHOシネマズ六本木ほか全国ロードショー
配給:Production I.G、ティ・ジョイ
2012年|1時間43分|日本|カラー
関連ホームページ:http://009.ph9.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連商品:商品タイトル
ホームページ
ホームページへ