スリープレス・ナイト

2012/06/01 東京日仏学院エスパス・イマージュ
汚れた刑事が息子を救うために悪党の巣に単身乗り込んで行く。
主演はトメル・シスレー。by K. Hattori

Sleeplessnight  刑事のヴァンサンは相棒刑事のマニュエルと組んで、犯罪組織から大量のコカインを奪うことに成功。だがその数時間後、ヴァンサンの携帯にコカインを奪われた組織のボス、マルシアノから電話がかかってくる。ヴァンサンの息子を誘拐したので、人質と引き替えに奪ったコカインを返却しろというのだ。大切な息子の命を守るためには、この取引に応じざるを得ない。ヴァンサンはコカインの入ったバッグを抱えて、マルシアノが経営するナイトクラブに向かう。だがその彼を尾行していたのは、麻薬捜査官ラコンブと部下の女刑事ヴィグナリ。じつはラコンブこそ強奪事件の黒幕で、マニュエルは彼に指示を受けて強奪計画にヴァンサンを引き込んだのだ。ナイトクラブのトイレにバッグを隠し、マルシアノとの取引に向かったヴァンサン。だが息子の無事を確認してバッグを取りに戻ってみると、バッグは消えてなくなっていた……。

 ハリウッドでのリメイクが決定しているという、トメル・シスレー主演のサスペンス・アクション映画。監督・脚本はフレデリック・ジャルダン。映画はヴァンサンたちが早朝の街中でコカインを強奪するシーンから始まり、ヴァンサンと息子がナイトクラブから脱出する翌日の朝までの丸1日を描く。物語の舞台はコカインが強奪される路上から、ヴァンサンの自宅、警察署などに移動するが、中心になるのはマルシアノが経営するナイトクラブ「タルマック」だ。クラブの中は大勢の客でごった返し、人間が動く壁のように主人公の行く手を遮り、同時に主人公の姿を隠す楯になるという趣向。しかしクラブ内部の位置関係がもう少しわかりやすくなると、後半の移動アクションがよりスリリングなものになったと思う。『七人の侍』や『ダイ・ハード』はその点を上手く処理していたが、この映画はダンスフロアと上階のオフィスをつなぐ階段が目立つぐらいで、トイレやキッチン、ビリヤード場、駐車場などの位置関係などがいまひとつよくわからない。

 主人公は正義の味方ではなく、悪党からとはいえコカインを強奪して横流しし、金を得ようと考えている汚れた刑事。妻とは離婚し、息子との関係もぎくしゃくしている。正義の味方ではない主人公が、それでも家族を守るために死にものぐるいで頑張り抜く!という映画は、先日観たフランス映画『プレイ ‐獲物‐』と同じパターン。だが『プレイ』で主人公のキャラクターがかなり細かく掘り下げられていたのに比べると、『スリープレス・ナイト』の主人公は今ひとつよくわからない。息子のトマ、元妻、相棒の刑事マニュエルなども含めて、ヴァンサンとその周辺人物のキャラクターをもう一団掘り下げてほしかった。

 極端なクロースアップが多いカメラワークも好みが出そう。手持ちのビデオカメラを使った揺れる映像もあちこちに使われて、スクリーンに一番近い最前列で観ているとこれだけで少し疲れてしまう。

(原題:Nuit blanche)

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9月15日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:トランスフォーマー
2011年|1時間42分|フランス、ルクセンブルク、ベルギー|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.sleeplessnight.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:スリープレス・ナイト
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