別離

2012/03/15 京橋テアトル試写室
テヘランで暮らす一組の夫婦の離婚裁判が大騒動を巻き起こす。
最後まで目が離せない人間ドラマ。by K. Hattori

Betsuri  「犬も食わない夫婦ゲンカ」などと言われるが、その夫婦ゲンカが思いがけない大事件を引き起こしてしまうというイラン映画。物語の舞台はイランの首都テヘラン。結婚して14年になるナデルとシミンの夫婦の離婚調停は、互いに身動きが取れない泥沼状態になっている。そもそものきっかけは、妻のシミンが海外に移住したいと言いだしたこと。理由は11歳になる娘の教育問題だ。子供を育てる環境として、現在のイランはあまり良好な条件とは言えない。当初は夫のナデルもこれに反対していなかったが、実際に移住の段取りを決めて手続きに入った途端、自分は海外に行けないと言いだした。認知症で外出もままならない父親が心配だというのだ。

 「お義父さんのことは前からわかってたはずなのに。あなたはやっぱり海外に行くのに反対なのね!」
 「反対はしてないだろ。行きたければ一人で行けばいいじゃないか」
 「今さら何言ってるの? じゃあ離婚よ!」
 「ああ構わんとも。君が別れたいなら別れよう。でも娘を勝手に連れて行くなよ」
 「娘のための海外移住なのにそんなの意味ないわよ。あの子は絶対に一緒に連れて行きます!」
 「離婚するまでは僕にだって親権があるぞ。娘を勝手に海外に連れて行くことは許さない」
 「じゃあ裁判でケリを付けましょう!」

 ところが裁判所の判事は、夫妻に向かって「もっとよく話し合え」と言うばかり。まるで話が先に進まない。妻のシミンは家を出て別居。ナデルは家政婦を雇って留守中に父の様子を見て貰おうと考えるのだが、このことが思いがけない大事件を呼び寄せてしまうのだった……。

 優れた映画は、大きな物語と小さな物語の組み合わせでできてる。この映画の場合、大きな物語はナデルとシミンの離婚問題だ。ふたりは憎み合っているわけでも愛が冷めてしまったわけでもない。今後の家族がどう暮らしていくかという問題を巡って、互いの気持ちがすれ違ってしまっただけなのだ。しかし移住のための手続きを40日以内に終えないと無効になってしまうという時間の制約がふたりを急き立てて、些細なすれ違いを大きなものにしてしまう。この夫婦が別れてしまうのか、それともよりを戻すのかが、この映画の一番の大枠になっている。

 そして大枠の中に含まれる小さな物語は、子連れの家政婦が流産してしまったことで、ナデルにかけられた殺人容疑とその後の裁判の行方。ナデルは家政婦の妊娠を知っていて突き飛ばしたのか、それとも知らなかったのか。家政婦は認知症の老人をひとり部屋に置いて、いったいどこに出かけていたのか。被害者の家族と和解すべきか、それとも裁判で事の真偽を徹底的に争うべきなのか。

 イラン映画というと子供や素人俳優を使った映画がすぐに思い出されるが、この映画はプロの俳優を使った濃厚な人間ドラマ。ベルリン国際映画祭など、各国の映画祭で数多くの賞を受賞している。

(原題:Jodaeiye Nader az Simin)

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4月7日公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:マジック・アワー
2011年|2時間3分|イラン|カラー|1:1.85|ステレオ
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