青い塩

2012/02/29 東映第1試写室
引退した大物ヤクザと彼を狙う女殺し屋の物語。
ソン・ガンホが大物ヤクザに見えない。by K. Hattori

Bluesalt  ハリウッド・リメイク版も作られた『イルマーレ』のイ・ヨンスン監督が、『イルマーレ』から11年ぶりに監督した最新作。前作の時空を越えたラブストーリーから一転し、犯罪組織の権力闘争に巻き込まれる元ヤクザと、抗争に巻き込まれていく若い女を主人公にしたサスペンス・ドラマだ。

 ソウルのヤクザ組織を束ねるチルガク会のマンギル会長が、交通事故で瀕死の重傷を負う。病院に駆けつける会の幹部たち。だがその中に、会長が心から信頼し、会の今後を託そうとする男ドゥホンの姿はない。ハンガン組の組長としてマンギル会長を支え、チルガク会の筆頭幹部でもあったドゥホンだったが、今やヤクザの世界から足を洗い、故郷プサンで隠遁生活を送っているのだ。彼の夢は故郷でレストランを開くこと。今はそのため料理教室に通っている。その教室で知り合ったのが、無愛想だが料理の腕前は抜群のチョ・セビン。だが彼女はプサンのヤクザ組織に依頼されて、ドゥホンの近辺を探っている便利屋だった……。

 物語としてはありきたりなものだと思う。ヤクザから足を洗った男が堅気の生活を目指すが、自分の兄弟分が殺されたことから組織内に裏切り者がいることを知り、再び抗争の世界に舞い戻ってくる話だ。そこに彼を慕う女の話がからんでくるのもありきたりだが、これが男を待ち続ける古い女ではなく、若いじゃじゃ馬娘に設定してあるのが新しいと言えば新しいのだろうか。主人公の属していたソウルのヤクザ組織、プサンの小さなヤクザ組織、ターゲットを完璧に失踪させる殺し屋組織の関係も、それほど難しいものではない。しかしそれでも、映画がやけに回りくどく、物語が遅々として進まないように見えてしまうのは困ったものだ。おそらく最初に考えたアイデアはもっと小規模だったが、そこにいろいろなアイデアを接ぎ木してこのような形になったのだろう。その場合は最後にエピソードをバラバラにほぐして組み立て直せばいいのだろうが、この映画ではそれができていない。人間関係もストーリーも錯綜したままなので、結果として物語のスピード感が失われてしまったと思う。

 元大物ヤクザの主人公ドゥホンを演じるのは、『殺人の追憶』や『グエムル -漢江の怪物-』のソン・ガンホ。しかし今回の彼は映画のどこをどう観ても「人のいいオジサン」にしか見えず、大物ヤクザというアウトローの雰囲気がまったく感じられなかったのが残念。時々ヤクザ時代を彷彿とさせるような場面もあるものの、それが小心な人物のおびえのように見えてしまうのは残念だ。ヒロインを演じたシン・セギョンは、役柄が複雑すぎてタレントが持ち合わせる魅力を伸び伸びと発揮させられなかったような印象も持つ。これに比べると、ドゥホンのボディーガード役の若いヤクザを演じたチョン・ジョンミンの方がずっと魅力的だ。

(英題:Hindsight)

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3月17日公開予定 丸の内TOEI、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:CJ Entertainment Japan 宣伝:樂舎
2011年|2時間2分|韓国|カラー|シネスコ|ドルビーSRD
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