最高の人生をあなたと

2012/01/17 松竹試写室
イザベラ・ロッセリーニとウィリアム・ハート主演のコメディ。
人間は自然には「老人」になれない。by K. Hattori

Saikonojinsei  巨匠コスタ・ガヴラスの娘で、監督作『ぜんぶ、フィデルのせい』が日本にも紹介されているジュリ・ガヴラスの新作は、イザベラ・ロッセリーニとウィリアム・ハートが夫婦を演じるコメディ映画。爆笑につぐ爆笑というタイプの映画ではないが、少しニヤニヤして、時々クスクス笑って、映画の後はニコニコしながら映画館を出てこられるような作品だ。原題は「遅咲きの花」程度の意味。波も嵐も乗り越えてきた夫婦が、目の前にある自分自身の「老い」とどう向き合って行くかが作品のテーマになっている。

 世界各地を飛び回って仕事をしてきた有名建築家のアダムと、30年の連れ合いで彼との間に3人の子供もいる妻メアリー。最近物忘れが激しいと感じたメアリーは医師のすすめで運動を始め、否応なしに自分自身の老いを自覚するようになる。一方アダムは事務所の経営パートナーからの提案で新しい老人ホームの設計デザインを請け負う羽目になるが、この仕事にまったく乗り気になれない。老人ホームだなんて、まるで自分とは違う別世界のことのような気がする。子供たちは成長して独立し、事務所のスタッフたちとの年齢も開き、自分自身の年齢を意識しないわけではないが、それでも自分はまだ老人になどなる気がない。そんなアダムに対して、メアリーは自分たちが「年寄り」であることを自覚させようとするのだが……。

 映画の世界には青春ドラマがたくさんあるが、それは映画を観る人の多くが子供から大人への成長を経験しているから共感を得やすいのだろう。世界中どこにでも子供から大人に至るおおよその決まった年齢というものがあって、その近辺の年代を取り上げれば、だいたいどこでも似たような話が転がっているという手軽さもあるだろう。しかし成長した大人が老人になる話は難しい。大人が主人公の映画は山のようにあり、老人が主人公の映画もたくさんあるが、大人から老人に至る過程を描く映画はあまり多くない。サラリーマンが主人公なら「定年前後」を描くこともできるが、この映画のように自営業の建築家と専業主婦になるとそれも無理。子供が独立したら老人なのか。孫が生まれたら老人なのか。そういうわけでもないだろう。自分が老人になるのかならないのかの見極めは、結局のところ自分自身で決断を付けるしかない。しかしこれが本当に難しいのだ。劇中で登場人物が「老人になるには勇気が必要だ」と言っているが、これは本当にそうだと思う。子供が大人になるのは簡単だ。年を取ればいい。自分で働いて自活すればいい。恋愛をして、結婚をして、子どもを生めばいい。でも老人になる方法は誰も教えてくれない。誰もが自分で自分自身の老いに向き合い、それと取っ組み合うしかないのだ。

 この手の映画はこれからもたくさん作られる可能性がある。いい年をした大人が老人になろうと(老人になるまいと)もがく話は、21世紀の新しい青春映画かもしれないのだ。

(原題:Late Bloomers)

Tweet
2月公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:アルバトロス・フィルム 宣伝:グアパ・グアポ
2011年|1時間30分|フランス、ベルギー、イギリス|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://saikou-jinsei.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連DVD:ぜんぶ、フィデルのせい
ホームページ
ホームページへ