ルルドの泉で

2011/11/30 松竹試写室
フランス最大の巡礼地ルルドの泉を訪れた気になれる映画。
巡礼者は奇跡の泉に何を求めるのか。by K. Hattori

Lourdes  フランスとスペインの国境ピレネー山脈のふもとにあるルルドの町は、聖母マリアの出現と奇跡で知られる「ルルドの泉」がある巡礼地だ。1858年に村の少女ベルナデッタ・スビルーがひとりの貴婦人と出会い、彼女は自らを「無原罪の御宿り」だと名乗った。聖母マリアが無原罪のままイエス・キリストを身ごもったという「無原罪の御宿り」は、この数年前にカトリック教会の正式な教義になったばかり。無学な田舎の少女が知るはずのないものだった。これで貴婦人が聖母マリアだということになり、貴婦人が指し示した場所から湧き出た泉は難病を癒す奇跡の泉として知られるようになる。ベルナデッタ本人は世間に注目されることを避けるように修道院に入り、35歳の若さで亡くなり、その後列聖された。ルルドの泉は今でも世界中から多くの信者を集める巡礼地となり、多くの人たちが病気の治癒を願って祈りを捧げている。

 本作『ルルドの泉で』は、観る人がルルド巡礼ツアーに参加した気分になれる映画だ。映画はツアー客が宿泊施設の食堂に勢揃いするところから始まり、数日間のツアー中の出来事を時間に沿って描きながら、ツアー終了前夜のささやかなお別れ会までを描いていく。大聖堂や沐浴場といった一般的な巡礼コースに加えて、奇跡的な治癒を審査する医療局の様子など、普通の人がまず入っていくことができそうもない場所にもカメラが入り込んで行く。撮影はほとんどが実際のルルドで行われているのだが、これはドキュメンタリー映画ではないので、どこまでが実際のルルドで、どこからがスタジオセットやロケセットなのかはわからないが、それでも映画を観ればかなりの「ルルド通」になれそうだ。つまりこれはヨーロッパ最大級の聖地を案内する、観光映画としてもきちんと機能している作品なのである。

 物語は巡礼ツアーに参加したひとりの女性の視点で綴られている。難病で全身麻痺になっている彼女は、ルルド以外にもさまざまな巡礼ツアーに参加してきている。そこで奇跡の癒やしを期待しているわけではない。カトリック教会の修道会が取り仕切る巡礼ツアーは、障害者に対する配慮の行き届いた数少ないツアー企画でもあるのだ。特にルルドでは障害や難病を持った人たちが最大限のもてなしを受け、日頃は社会の片隅でひっそりと生きている人たちがスポットライトを浴びて主役になれる数少ない機会でもある。

 ヒロインはこの巡礼ツアーで「癒し」を体験するのだが、それを祝福する人たちの中に生じる疑惑や嫉妬の眼差しがじつに痛々しい。難病や障害という共通の悩みによって団結していたツアー客たちは、癒やしを求めながら、癒されてそこから抜け出す人が現れることを素直には喜べない。自分の身に起きた不幸について「なぜ私がこんな目に」と神を恨んだ人たちは、癒やしを目の当たりにして「なぜ私ではないのだ」と同じく神を恨むのだ。

(原題:Lourdes)

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12月23日公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:エスパース・サロウ
2009年|1時間39分|オーストリア、フランス、ドイツ|カラー|1.85:1|ドルビー、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://lourdes-izumi.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
Blu-ray:Lourdes
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