はさみ

hasami

2011/11/21 映画美学校試写室
理容美容専門学校で教師と生徒たちの思いがぶつかり合う。
主演の池脇千鶴は狂言回し。by K. Hattori

Hasami  東京中野の理容美容専門学校で教員をしている久沙江は、担当しているクラスで問題を起こしてばかりいる洋平に手を焼いていた。授業中にふざけたり、クラスメイトをからかったりする洋平だが、彼は子供時代に母と離別し、家族との関係が上手く行かずに、高校時代は引きこもり生活を送っていたのだという。学校で強く注意された洋平は学校を休みがちになり、家庭訪問に訪れた久沙江に自分の胸の内を語る。彼がはしゃいでいるのは、そうしていないと周囲とうまくコミュニケーションできないという不安や自信のなさの表れだったのだ。美容の仕事に興味はあるし、学習意欲はあるが、人間関係でいつもつまずく洋平は、実際にサロンで働きながら夜間の授業に通うことで少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。同じ頃、クラスでもうひとり、学校を休みがちになっているのが弥生だ。彼女はイラストレーターの恋人がクライアントとの関係で苦しんでいる様子を見て、「才能があってもそれだけじゃ駄目なんだ」と思い悩む。久沙江は「悩みがあってもまずハサミを動かし続けること」とアドバイスするが、その言葉は弥生の心には届かないのだった……。

 高校や大学を舞台にした映画は山のように作られているが、専門学校を舞台にした映画は少ない。(『Paradise Kiss』が服飾専門学校を舞台にしていたが、物語の設定上は高専という扱いだった。)僕は自分が専門学校(デザイン系)出身だし、専門学校(映像系)で数年間非常勤の講師をしていたこともあるので、専門学校という場所には親近感を持っている。僕が通ったり教えたりしていた学校は国家資格と無縁だったが、入学式や卒業式や講師向けの研修会などで、資格取得を目指す系列学校の厳しさについて話を聞くこともあった。また最近の学生が、ひどくひ弱で傷つきやすくなっているという話も聞いている。この映画には些細なことで周囲から孤立したり、引きこもったり、自信を喪失してしまう生徒たちが出てくるが、これは映画的な誇張でも何でもなく、実際にこうした事例が多々あるであろう事が容易に想像できるのだ。

 この映画の作り手たちは、現場の様子を随分と丁寧に取材していると思う。少なくとも学校に通ってくる生徒たちのエピソードに、作り事めいたものはあまり感じられない。一番リアルなのは物語の傍系のエピソードとして登場する、何の予兆もなく突然学校を退学してしまう生徒の話。「入学したときから自分に向いてないと思った」と言うこの生徒を「せめて資格を取るまで」と必死で説得する教員に対し、生徒の親は「本人のやりたいようにさせてください」と完全に放任を決め込んでいる。これはどの専門学校でも、いかにもありそうな話ではないか……。

 職業教育をする専門学校は、大卒後の就職難が言われている昨今、もっと注目されていい学校だと思う。この映画に限らず、いろいろな映画が作られてほしい。

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1月14日公開予定 新宿K's cinema
配給:アートポート
2011年|1時間52分|日本|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.artport.co.jp/movie/hasami/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:はさみ hasami
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