同じ映画を何年かしてから再度観ると、以前観ても気づかなかった部分に気づいたり、以前観て覚えていたシーンの演出や台詞が、実際は違う演出や台詞になっていて驚くことがある。僕が前回この『ひまわり』を観たのは、映画瓦版の記録によれば1996年の10月、東京の銀座文化劇場でのことだった。日本ヘラルド映画配給の英語版プリントだ。映画が始まると、画面の中央に大きく「SUNFLOWER」というタイトルが出たのを覚えている。リバイバル映画専門館だった銀座文化劇場は、その後シネスイッチ銀座(シネスイッチ2)になり、老舗の洋画配給会社だった日本ヘラルド映画は角川傘下に入って角川ヘラルド・ピクチャーズになり、さらに角川映画と合併して角川ヘラルド映画になり、現在は角川映画に一本化されている。15年たって僕もずいぶん変わったが、映画を取り巻く環境もずいぶん変わったものだ。
今回リバイバル公開される『ひまわり』はオリジナルのイタリア語バージョンで、映画冒頭のタイトルも「I GIRASOLI」とイタリア語表記。主演のソフィア・ローレンやマルチェロ・マストロヤンニも当然イタリア語をしゃべっている。マストロヤンニは1996年に亡くなったが、ソフィア・ローレンは2009年のミュージカル映画『NINE』で主人公の母を演じていた。年は取っても華やかなスター女優の輝きは40年前と変わらない。いやはやご立派。
映画を観て印象的だったのは、マストロヤンニ扮するアントニオがロシア戦線で赤軍に追われる場面から、凍死寸前になって仲間からも見捨てられる一連の場面。疲れた足取りで歩むイタリア軍の背後に巨大な赤旗が掲げられると、そこに第二次大戦中の記録映画らしきモノクロの映像がオーバーラップして、ロシア軍の勇猛果敢な戦い振りが紹介されていく。この場面はロシア軍の戦いが風にはためく赤旗だけで記号的に表現されているわけだが、この場面だけ映画全体から浮き上がっているようにも思う。その後、散り散りになった兵士たちが見渡す限りの雪原をさまよい歩く場面は、兵士たちが歩きながら凍り付いて行くようなこの世の地獄を表現したかったのかもしれないが、残念ながら映画に寒さは写らない。これは『八甲田山』(1977)や『南極物語』(1983)などにも言えることだが、映画は暑さや寒さを表現するのが特に苦手な表現メディアなのかもしれない。
戦争によって夫婦が引き裂かれるメロドラマだが、その背後には東西冷戦という政治的問題がある。映画ではそこをアントニオの記憶喪失という設定でぼかしているが、冷戦時代を知っている人なら映画に直接は描かれないさまざまな事情も映画から読み取るだろう。しかし冷戦が終わってもう20年。現在30歳以下の人たちには、この映画がもう通じなくなっているかもしれない。世界の歴史が、映画の賞味期限切れを招いてしまった。
(原題:I girasoli)
DVD:ひまわり HDニューマスター版
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