アンダー・コントロール

2011/09/30 京橋テアトル試写室
脱原発に向かって進むドイツを取材したドキュメンタリー。
原発は停止させてからが大変だ。by K. Hattori

Unterkontrolle  今年3月11日に起きた福島第一原子力発電所事故は世界中に衝撃を与え、ドイツは2022年末までに原発を全廃することを決定した。しかしドイツは福島事故を見て、急に政策転換したわけではない。2000年には当時のシュレーダー政権が電力会社との間で、原子炉の稼働年数に上限を設けることで合意しており、ドイツの脱原発はもともと進行中のことだったのだ。この映画は既に脱原発を決めていたドイツの原発事情を、丁寧な現地取材によって明らかにしていくドキュメンタリー映画だ。現在稼働中の原発の様子から始まり、内部で働く人たちの様子、稼働することなく閉鎖されてしまった原発跡地、核廃棄物の処分場、廃炉になった原発の解体など、原発のさまざまな姿を見せてくれる。ここには原発が生まれてから死ぬまでの一生があり、原発が輝かしい未来のエネルギーと持てはやされていた時代から、もはや時代遅れのエネルギーになってしまった今までの歴史がある。

 この映画に描かれていないのは、原発の設計や建設というスタート地点だ。スタート直後に挫折して、そのまま廃墟になってしまった原発や、建屋を遊園地に再利用している施設は出てくるのだが、メインは稼働中の原発と、廃炉解体、廃棄物処理になる。ドイツの原発に新規建設はない。今ある原発を使い続けること(ただし2022年までの期限付き)と、使い終えた原発を解体処分することしかない。おかしな例えかもしれないが、ドイツの原発というのは、新規入居のない老人ホームみたいなものなのだ。今いる入居者がみんなお亡くなりになるか退去してしまえば、それでおしまい。将来の展望も、夢も希望もそこにはない。求められているのは、きれいに「終わる」ことだけだ。

 原発というのは運転時の燃料コストが他の発電方式に比べて安いというのが売りだが、放射能漏れや爆発といった事故のリスクを仮に例外的な事柄として除外するにしても、廃棄物の処理コストがかなり高く付くのではないかと言われていた。だが映画を観てわかるのは、原発の停止解体にも膨大なコストがかかりそうだということだ。原発は原子炉含めた建屋の中心部分が、かなり広範囲に渡って放射能汚染されている。これをどうやって解体し、どのような除染処理をして、最終的にどこに捨てるのか。これをまったく考えないまま、日本は50数基の原発を作ってしまったのだ。

 脱原発も止むなしだろう。しかし「脱原発します」と宣言して、いきなり翌日から原発を止められるようなものでもない。それは原発に代わる電力供給をどうするかという話とはまったく別の次元で、原発を止めた後にどのように解体するかという具体的なノウハウが、そもそもこの世界に存在しないからなのだ。いずれにせよこれから原発について考える上で、これは必ず観ておくべき映画だと思う。

(原題:Unter Kontrolle)

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11月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:ダゲレオ出版 宣伝:Playtime
2011年|1時間38分|ドイツ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.imageforum.co.jp/control/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アンダー・コントロール
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