マネーボール

2011/09/16 SPE試写室
大リーグの貧乏球団を生まれ変わらせたマネーボール理論。
有名な実話をブラピ主演で映画化。by K. Hattori

Moneyball  1901年のアメリカンリーグ発足と同時にリーグに所属し、15回のリーグ優勝と9回のワールドシリーズ優勝を成し遂げている名門オークランド・アスレチックス。しかし1990年代以降は球団の財政事情が厳しくなり、若手から主力に育てた優秀選手を、次々と他球団に引き抜かれるありさまだった。GM(ゼネラル・マネージャー)のビリー・ビーンは抜けた選手の穴を埋めるためスカウトたちと協議するが、スカウトたちの話は個人的な経験と直感頼みで決め手に欠ける。そんな時、ビリーはイェール大学出身のピーター・ブランドという男に出会う。ブランドは統計学とコンピュータを使って独自の選手評価をする男で、ビリーは彼を自分の補佐役としてチーム改造に乗り出して行く。しかしセイバーメトリクスと呼ばれるその方法論は、古くからの野球観に染まりきっている他の球団関係者たちを憤慨させるものだった。「あいつらは野球をぶち壊そうとしている」と異端視されるビーンたち。新しい理論で選手強化をしても、新しく入れた選手を監督が試合に出さないありさまだ。チームは負け続け、ビーンは成績低迷の責任を問われることになったのだが……。

 アメリカ大リーグの実在のGMを主人公にした、ブラッド・ピット主演の実録野球映画。原作はビリー・ビーンを取材してその理論を紹介した、マイケル・ルイスの同名書籍。ビーンは今でもアスレチックスのGMなので映画化にはいろいろと制約もあったと思うが、なかなか面白いエンタテインメント作品に仕上がっている。映画の中でビリーの右腕となるピーター・ブランドは当時GM補佐だったポール・デポデスタがモデル。名前や設定を変えられているのは、彼がその後ドジャースのGMに引き抜かれるなど、ビリーの信頼できる相棒からライバル関係になったためだろう。(デポデスタはその後ドジャースを解雇され、パドレスを経て現在はメッツのフロント入りしているとのこと。)映画の中では球団間でカードゲームの役札のように交換されたり捨てられたりする選手たちの様子が描かれているが、それは球団フロントについても同じなのだ。

 野球選手の評価を単純な数式に還元してしまう「マネーボール理論」を映画で描くことは難しいため、脚本はそこを回避して周辺のドラマを膨らませている。ただし物語の焦点を野球に絞り込まず、主人公ビリー・ビーンと家族の問題にもう一方の軸足を置いたのは成功とは言いがたいように思う。子供を出して主人公の人間像に厚みを出そうとしているのだが、このエピソードが映画にどうしても必要なものとは思えないのだ。映画の中では「マネーボール理論」が、監督やコーチやスカウトたちとの間で大きな軋轢を生み出していることは伝わってくる。ビーンに反発していた監督やコーチは、チームが結果を出し始めたときにどう変わったのだろうか。この映画の中では、そうした人間の変化や成長が見えにくくなっている。

(原題:Moneyball)

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11月11日公開予定 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2011年|2時間13分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.moneyball.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:マネーボール
原作:マネーボール(マイケル・ルイス)
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