ブリッツ

2011/09/09 シネマート試写室
ジェイソン・ステイサムが警官殺しの殺人犯を追い詰める。
イギリス版『ダーティハリー』だ。by K. Hattori

Blitz  シネマスコープの横長画面一杯に、主人公が寝そべるフルショットの映像から始まるオープニングがいい。目を閉じてソファに寝転がる主人公の姿は、棺桶の中の死体のように見える。やがて外の物音に気づいてむくりと起き上がった男は、卓上のウィスキーを不味そうにノドに流し込むとぶらりと外に出る。自動車泥棒のストリートギャングたちを、足腰が立たなくなるまでぶちのめすためだ。これが彼の日常。彼の名はブラント。サウスロンドン警察に勤務する、札付きの暴力刑事だ。

 ジェイソン・ステイサム主演のサスペンス・アクション映画。人々の生活臭が漂ってきそうなロンドン下町を舞台に、悪党には法を無視した鉄拳制裁も辞さない暴力刑事と、警官ばかりを狙う劇場型の連続殺人犯との戦いを描く。監督はミュージックビデオ出身のエリオット・レスター。ケン・ブルーウンの小説を、『月に囚われた男』のネイサン・パーカーが脚色している。

 この映画の面白さは、物語を単純な正義と悪の戦いにしていないことだ。主人公はしばしば問題を起こす暴力刑事で、警官という身分があればこそ、かろうじて犯罪者になっていないという男。しかも町で起きる連続警官殺人も、犯人をそこまで追い詰める原因を作ったのは彼かもしれないのだ。相棒のナッシュはゲイの警官で、ブラントとは正反対の冷静沈着型に見えるが、過去には法の網をくぐって逃げる犯人を半殺しにしたこともある。婦人警官のフォールズは元麻薬中毒患者で、今も昔馴染みのストリートギャングたちと付き合いがある。ここでは犯罪者と警官が、薄汚れた社会の中で同居している。善人はいない。みんな問題児なのだ。だが薄汚れた警官たちの中にも、警官としての矜恃がある。ここにいるのは「汚れた警官」や「暴力刑事」ではあっても、「悪徳警官」ではない。映画は主人公が突然ストリートギャングに不法な暴力を振るうという場面からスタートするが、そこから少しずつ人間を掘り下げて、主人公たちの「警官としての意地」を描いていく。悪は滅び、正義は必ず勝つ。これで意外と、モラルを重んじる映画なのだ。

 はみ出しものの暴力刑事が性格異常の連続殺人犯を追い詰めていくという展開は、クリント・イーストウッドの『ダーティハリー』(1971)に似ている。マスコミに犯行声明と次回の犯行予告をする劇場型の連続殺人犯や、一度逮捕した犯人が保釈されてしまう理不尽さなども、『ダーティハリー』そのままの展開だ。だが『ブリッツ』は主人公ブラントに頼もしい相棒ナッシュを与え、婦人警官フォールズなど魅力的な警官たちを大勢登場させることで、主人公を一匹狼のアウトロー刑事にしない。また犯人のキャラクターも掘り下げて、小心者でありながら大胆不敵、向こう見ずなくせに知能犯という、異様な存在感の犯人像を作り上げている。これは演じているアイダン・ギレンがやたらと上手かった!

(原題:Blitz)

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10月15日公開予定 新宿バルト9
配給:ショウゲート 協力:ハピネット 宣伝:プレシディオ
2011年|1時間37分|イギリス|カラー|スコープサイズ|SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://blitz-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ブリッツ
原作洋書:Blitz (Ken Bruen)
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