アサシン

2011/08/22 サンプルDVD
無垢な女子高生との触れ合いが殺し屋の凍てついた心を癒す。
中途半端な作りのジャパニーズ・ノワール。by K. Hattori

Assassin  新堂冬樹の同名小説を、『芸者 vs 忍者』や『ゴスロリ処刑人』の小原剛が映像化したサスペンス映画。ジャパニーズ・ノワールと銘打っているが、殺し屋が出てきて、犯罪組織が出てきて、主人公を破滅させる運命の女が出てきて、友情があって裏切りがあって……というあたりはフィルム・ノワールのムードか。ただし運命の女がセーラー服の女子高生というのが、いかにも現代の日本を舞台にした映画だ。劇中にはこの手のジャンルには不可欠な「赤いドレスの女」も出てくるので、この映画の中ではファムファタルとしてのヒロインが、清純な女子高生と、赤いドレスの娼婦の2人に分裂していることがわかる。映画のタイトルに添えられている英語タイトルは「An Assasin」だが、映画に登場する主役クラスの暗殺者は2人。ここでもキャラクターの分裂が見て取れる。

 ヤクザ組織のボスを暗殺するよう命じられた若き殺し屋・花城涼は、ホテルのロビーでターゲットを待ち伏せるが任務に失敗。涼は失敗の原因を作った女子高生リオの手を取って、現場から脱出する。正体を知った目撃者は消さねばならない。相棒の俊一や仕事のコーディネーターである篠崎はリオを殺すべきだと言うが、涼は彼女を守ろうとする。だがそれは、殺しを請け負う組織に反抗し裏切ることを意味していた。組織から放たれた殺し屋たちが、涼とリオを狙う。

 『ゴスロリ処刑人』ではアクション演出にシャープな腕前を見せた小原監督だが、荒唐無稽なエンタテインメントである『ゴスロリ〜』に対して今回のアクション演出は基本的にリアリズム。しかしスタイルや作りたい絵を優先してリアリズムを犠牲にしている部分が目立ち、それがこの映画を中途半端なものにしてしまった。例えば映画導入部にある、逃げる男を射殺するシーン。ターゲットが命乞いするのを無視して殺すのだが、こんなものは台詞が終わるのを待つことなく撃ってしまえばいい。次の大がかりなアクションシーンも、ビルの屋上から立ち撃ちで、しかもブラインド越しにターゲットを撃つという無茶なことをしている。より姿勢が安定する伏せ撃ちや座り撃ちができない条件ではなったはずなのだから、ここで立ち撃ちをさせたのはリアリズムより見た目を優先した結果だ。狙撃手の涼と観測手の俊一がどのような役割分担をしているのかも、この映画ではわかりにくい。エレベーターの扉が開いた瞬間ターゲットを撃つシーンも、主人公が姿を現してから撃つまでが遅すぎる。こんなものは映画を観ている観客にもよくわからないうちに、さっさと撃ってしまった方がリアリティがありそうだが、これもリアリズムよりわかりやすさを優先しているのだ。

 ドラマとしては登場人物たちのキャラクターに具体的な裏打ちがないまま、観念的に造形されている部分も多い。低予算の縛りはあると思うが、低予算なればこそ、表現の方向性がぶれない強力なコンセプトが必要なのかもしれない。

Tweet
10月8日公開予定 シネマート六本木、ワーナー・マイカル・シネマズ大宮ほか
配給:ゴー・シネマ 宣伝:ブラウニー
2011年|1時間40分|日本|カラー
関連ホームページ:http://an-assassin.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:アサシン
原作:アサシン(新堂冬樹)
関連DVD:小原剛監督
関連DVD:馬場良馬
関連DVD:久保田悠来
関連DVD:岩田さゆり
関連DVD:渡辺奈緒子
関連DVD:高橋ジョージ
関連DVD:大友康平
ホームページ
ホームページへ