プリースト

IN 3D

2011/08/02 SPE試写室
人間とヴァンパイアの死闘を3Dで描くアクション映画。
ビジュアルは80点。ストーリーは30点。by K. Hattori

Priest  有史以前の太古から、人類とヴァンパイアたちは互いが生き残るための死闘を続けてきた。人間以上の身体能力を持ちながら太陽の光を嫌って夜しか活動できないヴァンパイアを、人間たちは多くの犠牲を払いながら少しずつ追い詰めて行く。その戦いは何百年、何千年も続いたのだ。そしてついに、人間たちはヴァンパイアを殲滅する究極の手段を生み出した。それは「プリースト」と呼ばれる人間兵器たち。ヴァンパイアに匹敵する運動能力を持つ彼らの活躍で人間世界はついに平和を勝ち取るが、それはプリーストたちが社会にとって無用な厄介者になる世界でもあった……。

 韓国のマンガ家、ヒョン民友(ミンウ)の「PRIEST」を、ポール・ベタニー主演で映画化したアクション・アドベンチャー映画。(原作は日本でもビームコミックから翻訳出版されていたようだが現在は絶版。)監督は『レギオン』でもポール・ベタニーと組んだスコット・スチュワート。原作コミックは未読なのだが、映画に描かれている世界観自体は壮大なスケールがあって面白い。ヴァンパイアを人間とはまったく異質の進化を遂げた生物として描くのがユニークだし、登場する世界が我々の属している世界とはまったく別種のもので、「カトリック教会が支配する暗黒の中世」のようなイメージと、テクノロジーが異形の進化を遂げたサイバーパンクと、西部劇のテイストが渾然一体なのも面白い。ただしどれだけ物語の背景に面白いアイデアが詰め込まれていても、物語自体がつまらなければ話はそれまでだ。

 この映画はじつに単純な構造になっている。ヴァンパイアに誘拐された少女を助けるため、伝説の戦士プリーストと、誘拐された少女の恋人だった保安官が旅をして、最終的には少女を救出するというだけの話だ。ここにプリーストの昔の仲間だった女性戦士が加わったり、ヴァンパイア軍団の首領とプリーストの確執が加わったりといった枝葉の部分はあるが、物語の幹になっているのは「誘拐された少女の救出」だけ。この幹さえぶれなければ、あとは最初から最後までサスペンスとアクションてんこ盛りにして一丁上がりだ。しかしこの映画は、肝心の中心線がぶれている。主人公が少女を救出しなければならない動機を後から小出しに説明するのだが、こうした後出しジャンケンがかえって物語の勢いを削いでしまう。プリーストと宿敵ブラック・ハットの確執も、映画のイントロ部分でふたりの友情なり絆なりをしっかり描いておかないと、愛憎入り交じった両者の関係が膨らんでこないだろうに。この映画は脚本時点で、もっと工夫して練り上げる余地が十分にあったのだ。

 「あわよくば続編を」という下心が見え見えなラストシーンにもがっかり。続編のためにアイデアを温存するより、まずこの1作にあらゆるアイデアを注ぎ込んでほしい。本当に面白い映画なら、たとえ主人公が死んだって無理矢理続編を作るのが映画の世界ではないか。

(原題:Priest)

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9月23日公開予定 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2011年|1時間27分|アメリカ|カラー|スコープサイズ
関連ホームページ:http://www.priest-movie.jp/.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:プリースト
原作:プリースト(ヒョン民友)
関連DVD:スコット・スチュワート監督
関連DVD:ポール・ベタニー
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