スーパー!

2011/06/06 京橋テアトル試写室
ギャングに奪われた妻を取り戻すため冴えない男がヒーローに。
監督は『スリザー』のジェームズ・ガン。by K. Hattori

Super  フランクは町のダイナーで働く冴えない中年男。子供の頃から冴えなかった彼の人生にとってほぼ唯一と言える自慢の種は、美しい妻サラとの結婚だ。だが彼女はある日突然、彼の前から姿を消してしまう。町で幅を利かせるドラッグディーラーの元締めジョックが、フランクにとっての希望の星を奪ったのだ。これまで清く正しく生きてきたのに、神はなぜこのような不正を許すのか。その時、フランクに神のお告げが与えられる。「正義のために戦うべし!」。フランクは天啓に逆らうことなく、手作り衣装の正義の味方クリムゾンボルトとして、町の悪を打ち砕くべく立ち上がるのであった。

 スーパーパワーも秘密兵器もまるで持たないのに、普通の男が手製のスーツを着て「正義のヒーロー」になってしまうという物語。マシュー・ヴォーン監督の『キック・アス』とアイデアはそっくりなのだが、『スーパー!』の脚本は2003年に書かれて2005年頃には映画化の話があったというから、この映画が『キック・アス』のまねをしたというわけではない。おそらく両方の作品の共通して影響を与えたのは、90年代に連作された映画版の『バットマン』だと思う。バットマンにこれといった超能力はないが、大富豪なので金に飽かせて秘密兵器を次々開発している。そのバットマンからお金を奪って冴えないオタク青年にしたのが『キック・アス』であり、冴えない中年男にしたのが『スーパー!』というわけだ。

 この映画の主人公は妻をギャングにさらわれた(と本人は信じ込んでいる)ことで正義のヒーローになるわけだが、だからといっていきなり妻を救出に向かうわけではない。彼が最初に手を出すのは、街頭で麻薬を売りさばく末端のディーラーや、金で少年を買いあさる老人、映画館の列に割り込むマナーのない客といった小物ばかり。挙げ句の果てに「車に傷を付けた」という又聞きの情報だけで、見ず知らずの少年の家に乗り込んで半殺しにしてしまう(実態としては殺人未遂)のだから、これは正義の暴走以外の何ものでもない。

 しかし僕にはこの主人公たちを笑えない。この手の「正義の暴走」が、世の中にはたくさんあると思うからだ。インターネットの中で「匿名」のまま正義を語り、その正義への異論を許さない人たちがいる。大きな権力や歴史や社会構造に根ざした巨悪は見て見ぬ振りするくせに、日常のもっと些細なこと(最近だと大学受験のカンニングなど)で匿名のネット住人が正義の拳を振り上げる。正義の味方クリムゾンボルトは、いわばそれを生身の肉体で行っているようなものだ。

 登場人物の誰にも共感できない映画なのだが、敵役のジョックを演じるケヴィン・ベーコンが上手い。型どおりの悪党ではあるのだが、その内側にある意外な繊細さを巧みに表現して、ラスボスのキャラクターに厚みを付けている。「自分の女を娼婦と間違えられるとはな」と部下にグチるシーンで見せる表情がイイのだ。

(原題:Super)

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7月30日公開予定 シアターN渋谷、新宿武蔵野館
配給:ファインフィルムズ 宣伝:ビーズインターナショナル
2010年|1時間36分|アメリカ|カラー|デジタル上映|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.finefilms.co.jp/super/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:スーパー!
サントラCD:Super
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