愛の勝利を

ムッソリーニを愛した女

2011/04/25 シネマート銀座
歴史の闇に葬られた独裁者ムッソリーニの隠し妻(?)の悲劇。
劇中に挿入される映画が印象的。by K. Hattori

Ainosyouriwo  1920年代から第二次大戦にかけての激動の時代、およそ20年に渡ってイタリアを導いた政治指導者ベニート・ムッソリーニ。ファシズムの創始者である彼の歴史的評価については今でも二分されているようだが、彼がイタリア人を夢中にさせたカリスマ的リーダーであったことは間違いない。英雄色を好むで多くの愛人がいたが(最後に捕らえられ処刑されたときも愛人同伴だった)、妻との間には5人の子どもに恵まれ、家族思いのよき父親としての顔も持っていたようだ。本作『愛の勝利を』の主人公は、そんなムッソリーニの隠し妻。ムッソリーニの妻ラケーレの影に隠れ、歴史から抹殺されたイーダ・ダルセルの悲劇的な生涯を再現している。

 彼女がムッソリーニに最初に出会ったのは1907年。その頃のムッソリーニはイタリア社会党の有力な党員でしかなかったが、演説会で見せる挑発的で自信たっぷりな態度にイーダは忘れがたい印象を持つ。イーダが彼に再会したのは7年後。警察に追われた彼を匿ったイーダは、ムッソリーニが新たに創刊する新聞のために資金を提供するなど、彼を物心両面でサポート。だが彼はこの当時、既に後の妻ラケーレと同棲中だった。イーダはムッソリーニの子どもを産んで認知されるが、この頃から彼の気持ちは彼女から離れていく。政治家として頭角を現していくムッソリーニは大衆受けする「よき夫、よき父親」としての体面を保つため、愛人と隠し子の存在を隠蔽し、政治的な圧力を使ってイーダと自分との間にあった出来事を消し去ろうとする。イーダを精神病院に閉じ込め、子どもは強制的に寄宿学校に入れて軟禁状態にしてしまう。イーダは各方面に手紙を書いて真実を訴えるが、自分こそムッソリーニの妻だと言い張る彼女の言葉を誰も信じようとしない。彼女はさまざまな形で、主張を取り消すように圧力をかけられるのだが屈することはなかった。

 イーダ・ダルセルは実在の人物だというが、彼女が実際にムッソリーニと結婚していたのかどうかはわからず(彼女が隠したと主張していた結婚証明書はその後も未発見)、映画の中でもそのあたりはぼかしてある。彼女とムッソリーニの結婚が事実なら、彼女は権力者に存在を抹殺された悲劇の女性。しかし彼女が本当はムッソリーニと結婚していないのなら、彼女は時の権力者との結婚を夢想し、それを現実と混同した頭のおかしな女性ということになる。僕は映画の中盤までそれが気になって仕方なかったのだが、映画後半でイーダの願いが「息子に再会すること」に移ってからはどうでもよくなってしまった。このへんは映画も落としどころとして心得ていて、彼女の乗る車を人々が取り囲む終盤の感動的なクライマックスへとつながっていく。

 劇中に盛んに映画が引用されているのだが、チャップリンの『キッド』を観ながらイーダが涙を流すシーンが胸を打つ。

(原題:Vincere)

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5月28日公開予定 シネマート新宿
配給:エスピーオー 宣伝:マジックアワー
2009年|2時間8分|イタリア、フランス|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.ainoshouri.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:愛の勝利を/ムッソリーニを愛した女
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