ブラック・スワン

2011/02/10 20世紀フォックス試写室
主役に抜擢されたバレエダンサーの悪夢のような日々。
バレエ映画というよりホラー映画だ。by K. Hattori

Blackswan  イギリスの映画監督マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーのコンビが、1948年に製作した『赤い靴』というバレエ映画がある。アンデルセンの童話「赤い靴」を原作にした新作バレエと、それに主演することになった若いダンサーの人生をオーバーラップさせたバレエ映画の古典中の古典。ミュージカル「コーラスライン」の中には若いダンサーが「映画『赤い靴』を観てバレエを習い始めた」と歌うナンバーがあるが、たぶん今でもこの映画を観てバレエを始める子供は多いと思う。それから60年以上たって、『赤い靴』の現代版とも言うべき映画が登場した。それがこの『ブラック・スワン』だ。しかし今後この映画を観て、バレエダンサーに憧れる子供はまず現れないだろう。『レスラー』でプロレスラーの身も蓋もない日常を赤裸々に暴露したダーレン・アロノフスキー監督は、この映画でもバレエダンサーの世界を赤裸々に描き出す。その荒涼とした世界には、背筋がゾッとするほどだ。

 新作バレエの主演に選ばれたヒロインの人生が、劇中のバレエの物語をなぞるように進行してゆくという筋立ては、『赤い靴』も『ブラック・スワン』も同じ。ただし『ブラック・スワン』は、そこに『キャリー』の要素を入れている。抑圧的な母親に育てられて、いつも周囲の反応にビクビク怯えている女の子の物語だ。自分の中にある欲望や衝動をひたすら押し殺し、いつか自分に誰かが目を留めてくれることを願う真面目で内気な処女。そんなヒロインが、「白鳥の湖」のオデット(ヒロインのホワイト・スワン)とオディール(悪魔の娘ブラック・スワン)の二役を演じることになるが、彼女にはホワイト・スワンは完璧に踊れても、官能的な魅力で王子を誘惑するブラック・スワンが踊れない。彼女がいかにして自分自身の殻を破り、自分の中にある欲望を解放させることができるのか。ライバルや先輩ダンサーとの確執、演出家への屈折した思い、自分を押しつぶそうとする母親からの重圧。それらが彼女の心の殻の上に折り重なり、そこから逃れようとする彼女は狂気迷宮をさまようことになる。

 映画に登場する悪夢のような出来事は、いったい何が現実で何が妄想なのかさっぱりわからない。このあたりはアロノフスキー監督のデビュー作『π』に相通じる世界だ。主人公の周囲の世界が猛スピードで変化してゆく様子は、『レクイエム・フォー・ドリーム』にも似ている。この映画は『レスラー』より何倍も、アロノフスキー監督の初期の映画に似ているのだ。

 バレエの世界を舞台にし、クライマックスにステージで上演される「白鳥の湖」のシーンを持ってきてはいるものの、これはバレエ映画と言うよりサスペンス・ホラー映画に近い。シーンによっては『ローズマリーの赤ちゃん』や『エクソシスト』も連想させるのだから、ここにはオカルト映画のテイストも含まれているというわけだ。ひたすら恐く、そして面白い。

(原題:Black Swan)

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5月13日公開予定 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス 宣伝:メゾン、Kプレス
2010年|1時間48分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、SRD、DTS
関連ホームページ:http://www.blackswan-movie.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ブラック・スワン
サントラCD:Black Swan
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