コリン

LOVE OF THE DEAD

2011/02/02 京橋テアトル
ゾンビになった青年の目から描く人類滅亡の終末世界。
直接製作費はなんと6千円ほど。by K. Hattori

Colin  イギリスで作られた低予算ゾンビ映画。製作費はなんと45ポンド。日本円にして6千円ほどだ。監督もスタッフも出演者も無給の手弁当で集まり、撮影機材などもあり合わせのもので済ませてしまえば新規の出費はほとんどゼロ。もちろんこんな事ができるのは、この映画がまったくの自主製作だから。製作・監督・脚本・撮影・編集・録音はマーク・プライス。低予算を売りにしているので多少話を誇張している部分はあるかもしれないが、それでも学生が自主製作映画に何百万円もかけていた時代からは夢のような話だ。

 主人公コリンがゾンビになってしまう場面から、映画は幕を開ける。人間たちがゾンビになって街中を徘徊する危険地帯を駆け抜け、ようやく友人宅にたどり着いたコリン。しかし彼は既に、ゾンビに噛まれて体調が変質し始めていた。そんなことはお構いなしに、既にゾンビに完全に変身してしまった友人は、情け容赦なく彼に襲いかかる。コリンは元友人だったゾンビを何とか倒すが、やがて彼自身の意識も遠のきゾンビになってしまう。彼はふらふらと立ち上がると街に出て、生きた人間を襲いながらどこかに向かって行くのだ……。

 ここからカメラはゾンビ化したコリンに付き添うように、人間のゾンビ化という異常事態に見舞われた人間社会の変貌ぶりを描いて行く。ゾンビの群れに襲われ逃げ場を失い、生きながら食われる犠牲者たち。希望を失って自殺を図ろうとする人々。群れ集うゾンビに対抗すべく、徒党を組んでゾンビを排除しようとする人たち。ほとんどのゾンビ映画が「ゾンビから逃れて生き延びた人間」を主人公にしているのに対して、この映画はゾンビ自身が主人公。この映画を観ていると、人間というのは映画の中でどんな対象にでも感情移入してしまえるものだと感心する。人間としての意識を失い、うめき声を上げながらふらふらと街をさまようゾンビに、いつの間にか感情移入してしまうのだ。ここでは「襲うゾンビと逃げる人間」という関係が逆転し、「襲う人間と襲われるゾンビ」という逆転世界が出現する。

 ほとんどのゾンビ映画はゾンビ化する世界を人間社会の縮図として描くのだが、この映画もそれは変わらない。しかしこの映画を観た人は、映画に登場するゾンビの群れこそが人間のありのままの姿だと気づかされてしまう。統制の取れない烏合の衆で、目の前にある飢えを満たすためだけに行動し、身に降りかかる暴力の前にただ右往左往するだけの存在。ゾンビ同士の間にコミュニケーションは存在せず、それぞれがてんでばらばらに行動する孤独な漂流者たち。もちろんこうした要素は過去のゾンビ映画にもないわけではないのだが、この作品では物語の視点をゾンビの側に置くことで、それがより明確になっている。ゾンビ化する世界の中では、ゾンビこそが最も人間らしい存在となる。ゾンビこそ、我々なのだ。

(原題:Colin)

Tweet
3月5日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:エデン 宣伝:フリーマン・オフィス
2008年|1時間37分|イギリス|カラー|スタンダード|ステレオ
関連ホームページ:http://www.colinmovie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:コリン LOVE OF THE DEAD
関連DVD:マーク・プライス監督
関連DVD:アラステア・カートン
ホームページ
ホームページへ