ホームカミング

2011/01/26 松竹試写室
ニュータウンの高齢化問題をユーモアタップリに描く。
主演はこれが映画初主演の高田純次。by K. Hattori

Homecomming  鴇田(ときた)和昭は61歳。長年勤めた商社を定年退社し、あとは郊外のマイホームで家族水入らずのノンビリした生活が待っているはずだった。だが退社後初日に思い知らされたのは、長年自分が暮らしてきた街を自分が何も知らなかったという事実。かつて「夢の街」「理想のホームタウン」として分譲されたニュータウンは高齢化が進み、今では住民の平均年齢が70歳に届こうかという「老人の街」になっていた。「若い人が来た」と大喜びする老人たちに強引に仲間に引き入れられた和昭は、初めて自治会活動に参加。そこでは長年街で行われていた住民主催のお祭りが、存亡の危機にさらされていた。

 この映画はストーリーだけ見ると、まるでファンタジーだ。定年退職したばかりの主人公が自治会の活動に参加し始めたことから、物事がすべてよい方に転がりだして最後はめでたしめでたしで終わる。このおめでたさ加減には苦笑してしまうほどだが、そうした甘っちょろいストーリーの周辺にちりばめられているのは、高度経済成長時代に作られた日本中のニュータウンや団地が抱える「超高齢化」の生々しい現実だ。ニュータウンの高齢化問題はあちこちで報じられているが、それを真正面から映画化した作品は珍しいかもしれない。

 1960年代から70年代にかけて、日本全国で田畑や山林を切り開いて造成分譲された大小のニュータウンは、そこに最初に引っ越してくる人たちが働き盛りの30代前後のサラリーマンだった。こうした人たちは横並びでニュータウンに家を購入し、横並びで子供たちが学校に通い、横並びで子供たちが独立し、横並びで年金生活の老人世帯になってしまった。ニュータウンを巣立った子供たちは、都心のより便利なところにマンションを購入するのだ。この結果かつて活気のあったニュータウンは、老人ばかりの寂れた街になる。この映画に登場する「虹の丘タウン」も、そうした高齢化ニュータウンのひとつなのだ。

 出演者の顔ぶれがいい。主演の高田純次と高橋惠子の夫婦を取り巻くのは、「俺たちの旅」や「俺たちの朝」で迷い多き青春を謳歌していた秋野太作であり、初代ウルトラマンのハヤタ隊員こと黒部進であり、ウルトラセブンのモロボシ・ダンであるところの森次晃嗣であったり、「太陽にほえろ」のゴリさんこと竜雷太であったりするわけだ。こういう人たちが、今ではすっかり老人になっている。映画の中ではこうしたリタイア老人たちの過去が細かく語られるわけではないが、映画を観ている人たちはどうしたって、そこに彼等が過去演じてきた役柄を重ね合わせるだろう。それによって、この映画の物語としての厚みが増してくるのだ。

 おそらくこの映画を観た人の多くが、ここに描かれている出来事を我がことのように感じるのではないだろうか。僕自身が郊外のニュータウンで育ち、そこに今も両親がふたりきりで住んでいる。この映画は、とても他人事とは思えない。

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3月12日公開予定 109シネマズグランベリーモールほか全国ロードショー
配給:クロックワークス 宣伝:フリーマン・オフィス
2010年|1時間45分|日本|カラー|ビスタ|DTS
関連ホームページ:http://home-coming.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ホームカミング
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