デザートフラワー

2010/12/08 京橋テアトル試写室
ソマリアの貧しい遊牧民の少女が世界的なスーパーモデルに。
国連大使ワリス・ディリーの伝記映画。by K. Hattori

Desertflower  ソマリアの貧しい遊牧民の娘から、ファッション業界でもトップクラスのスーパーモデルになったワリス・ディリーの伝記映画。原作はワリス・ディリー自身による同名の自叙伝(日本版の題名は「砂漠の女ディリー」)。1997年に出版されたこの本は当時から話題になり、最初はエルトン・ジョンが映画化権を取得したが、原作者のワリスと映画化の方針に食い違いが生じて挫折。結局『名もなきアフリカの地で』のドイツ人プロデューサー、ピーター・ヘルマンが改めて映画化権を再取得し、ドイツ系アメリカ人のシェリー・ホーマン監督で撮影がスタート。スーパーモデルのワリスを演じるのは、現役スーパーモデルでもあるエチオピア出身のリヤ・ケベデ。彼女は女優としても『ロード・オブ・ウォー』や『グッド・シェパート』に端役出演しているそうだが、主演作はこれが初めてだという。その割にはルームメイト役のサリー・ホーキンスやティモシー・スポールに囲まれて、堂々とした主演スターぶり。今後の活躍が期待できるかもしれない。

 実話としての面白さや衝撃はあるが、映画としてのまとまりは悪い。物語はアフリカで少女時代を過ごすワリスの姿から始まり、その数年後のロンドンに突然移動する。その後も時間は前後に飛びながら、少しずつワリスの過去を語ってゆく。映画のまとまりが悪くなった原因ははっきりしている。それはこの映画が「アフリカの貧しい遊牧民の娘が世界的なスーパーモデルに」というシンデレラ物語と、「アフリカの女性たちを苦しめるFGM(女性性器切除)の告発」という、まったく異なった2つの要素からできているためだ。映画は序盤から中盤にかけて前者を主に描き、終盤からいきなり後者にテーマを移行させてしまう。このあたりの処理が、どうにも荒っぽい。もっと別の形で、スマートに全体を構成することはできなかったのかと疑問に思う。マズルカ形式にして、モデルとして成功したワリスが自分自身の人生を語るという形式にしてもよかっただろう。あるいは前半できらびやかなシンデレラストーリーを時系列に描き、後半では前半で隠されていた「真実」が明かされるという形でもよかった。いずれにせよ、この映画の構成は大いに疑問だ。この構成では映画の終盤でワリスがインタビューアーから「あなたの人生を変えた日は?」と尋ねられたとき、だいたいどんな話が出てくるのか観客には予想ができてしまう。もしこのエピソードを終盤に持ってくるのなら、映画前半からこの話題を小出しにするのではなく、終盤にまとめてしまった方が観客の衝撃は大きくなったはずだ。

 しかしそれでも、この映画の語る「事実」は重い。僕はFGM(女性割礼とも訳される)のことを知らなかったわけではないが、そのことで傷つく人たちのことをどれだけ知っていたか……。この映画を観た人は誰しも、今後はFGMの問題に他人事のような態度は取れなくなるだろう。

(原題:Desert Flower)

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12月25日公開予定 新宿武蔵野館
配給:エスパース・サロウ、ショウゲート
宣伝協力:博報堂DYメディアパートナーズ
2009年|2時間7分|ドイツ、オーストリア、フランス|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.espace-sarou.co.jp/desert/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:デザートフラワー
原作:砂漠の女ディリー(ワリス・ディリー)
関連DVD:シェリー・ホーマン監督
関連DVD:リヤ・ケベデ
関連DVD:サリー・ホーキンス
関連DVD:ティモシー・スポール
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