キック・アス

2010/10/14 京橋テアトル試写室
普通の高校生が通販のコスチュームでアメコミヒーローに。
これはかなりディープだ……。by K. Hattori

Kickass  スポーツでも勉強でも目立つところが無く、友達はいるけど女の子にモテるわけじゃない。要するにデイヴ・リゼウスキはごく普通の、どこにでもいる高校生のひとりだ。コミックオタクの彼が憧れるのは、アメコミのヒーローたち。ネット通販でアメコミ風のコスチュームを手に入れたデイヴは、部屋の鏡の前でポーズを取るだけでは飽きたらず、やがてその格好のまま街へGO! しかし現実は甘くない。車上荒らしのチンピラに声をかけた途端、返り討ちにあって半死半生の重体になってしまう。気がついたときには全身の骨が金具で固定され、末梢神経が麻痺して痛みを感じない身体。それでもデイヴは自分の全身レントゲン写真を見て、「ワオ、これってクールじゃん! ウルヴァリンみたいだ!」と大はしゃぎ。体力が回復すると早速再び街に出て、数人のギャングに追われるチンピラ風の男をかばって大立ち回りを演じるのだ。その様子がネット中継されると、謎の覆面ヒーロー、キック・アスは大評判。だが手製のアメコミ・コスチュームに身を包んで悪と戦うヒーローは、デイヴだけではなかった……。

 マーク・ミラーとジョン・S・ロミタ・Jrの人気コミック「キック・アス」を、『レイヤー・ケーキ』や『スターダスト』のマシュー・ヴォーンが脚色・監督した異色のアメコミヒーロー映画。映画や原作についての予備知識ゼロでいきなり観始めたので、最初はこんなものコメディだと思っていた。何の特殊能力があるわけでもない、ただ「アメコミヒーローが好き!」というだけの高校生が手製のスーツを着て夜の街をパトロールなんて、まるでギャグ以外の何者でもないではないか。ところがこれが、とんでもない映画だった。普通の人間が仮面のヒーローを求める気持ちを、これほど切実に描いた映画はない。しかし同時に、普通の人間が仮面のヒーローになることの恐ろしさを、これほど切実に描いた映画もない。同様のテーマは『バットマン』シリーズなどでも描かれているのだが、その切実さにおいて『キック・アス』は他のアメコミヒーロー映画に抜きん出ている。

 主人公はキック・アスに変身する高校生デイヴなのだが、彼は物語の狂言回しに過ぎない。物語の大きな対立軸は、悪の帝王フランコ・ダミゴと、彼に妻を殺された元警官デーモンの対立にある。デーモンは娘のミンディと共に仮面のヒーロー「ビッグ・ダディ」と「ヒット・ガール」に変身し、ダミゴの部下たちを次々血祭りに上げていくのだ。法で裁けぬ悪と戦う仮面のヒーローは、彼ら自身が法を超越しているという意味でアウトローだ。敵を殺すことをゲームのように考えているヒット・ガールは、父の復讐心が生み出したモンスター。その怪物がばたばたと敵をなぎ倒す姿は痛快だが、しかしどうしようもなくグロテスクなものでもある。悪と戦うための力も結局は別種の「悪」に過ぎないことを、ビッグ・ダディとヒット・ガールは示している。

(原題:Kick-Ass)

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12月18日公開予定 シネセゾン渋谷
配給:カルチュア・パブリッシャーズ 宣伝:スキップ、デジタルプラス
2010年|1時間57分|アメリカ、イギリス|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、SRD
関連ホームページ:http://www.kick-ass.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キック・アス
サントラCD:KICK-ASS
原作:キック・アス
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