エリザベスは30代にして、作家としてのキャリアとそこそこのセレブ生活、優しい夫、郊外の一軒家を手に入れてしまった。人生は順風満帆のように見えたが、彼女の心は満たされない。むしろぽっかりと心に穴が空いている気分だ。突然夫に別れを切り出して家を飛び出した彼女は、売れない若い役者と同棲したりもするが、それでも心は満たせない。彼女はそれまでの人生をリセットするため、自分探しの旅に出る。目的地はイタリア、インド、そしてインドネシアのバリ島。イタリアではダイエットなど忘れて食べまくり、現地で友だちも大勢できた。インドの瞑想道場では口うるさいアメリカ人のオヤジに気に入られて閉口するが、彼が抱えている心の痛みに共感し、「まず自分で自分をゆるすんだ」という言葉に励まされ涙ぐむ。そしてバリ島。かつて取材で出会った現地の療法師に弟子入りし、心穏やかに神秘的なパワーと瞑想の生活を送ろうとしていた矢先、彼女は飛びきりのイイ男に出会ってしまうのだった!
エリザベス・ギルバートのベストセラー自伝小説を、ジュリア・ロバーツ主演で映画化したコミカルで心温まるドラマ。男の立場からすれば、エリザベスというのはちょと鼻持ちならないワガママ女かもしれない。突然思いつきのようにすべてを投げ出して離婚し、若い役者をもてあそんだ末に放り出し、勝手に自分探しの旅に出かけて、イタリアでは地元グルメを満喫し、インドでは神秘的な瞑想の世界にはまり、バリ島ではイケメンをゲットしてセックス漬けの生活を送る。なんとも優雅でお金のかかった自分探しの旅ではないか。しかしこれをジュリア・ロバーツが演じると、イヤミのないチャーミングなヒロインに見えてくる。原作がベストセラーになっているのだから、もちろん原作の魅力もあるだろうし、原作者のキャラクターも映画に負けず魅力的なのだとは思うが、それを最初の5分で観客に納得させるのがスター女優の持つ輝きであり、映画の持つ魔法の力だ。
しかしこの映画、残念なことに映画としての面白さは最初のイタリア編で尽きているようにも思う。導入部のニューヨーク編と最初の旅の目的地であるイタリアでは、主人公の行動(アクション)自体が物語を作り上げる重要な要素になっているため、映画としても変化に富んで表情豊かなものになる。飲んだり、食べたり、人と会ったり、観光名所を見物したりと、エピソードに事欠かないのだ。ところがインド編は主人公の内省的な旅になり、場所もほとんどが修行道場の中に限定される。バリ編になると風景は広がりが出てくるが、変化に乏しく単調な印象。また主人公の行動がそれまでの旅を振り返る後ろ向きなものになり(これ自体は旅の総括として悪くはないのだが)、後先考えずに前に進んでいくパワーが乏しくなってくる。
上映時間は2時間20分。最後の20分ぐらいは、正直ちょっとキツイなぁ……。
(原題:Eat Pray Love)