ちょんまげぷりん

2010/08/13 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン8)
江戸時代の侍が現代にタイムスリップして洋菓子職人に。
「面白い話」ではあるんだけれど……。by K. Hattori

Chonmage  三十路のシングルマザー遊佐ひろ子は、来年小学校に上がるひとり息子の友也を抱えて日夜孤軍奮闘中。会社ではある程度責任のある仕事を任されているが、保育園のお迎え時間に合わせて連日の定時退社。「遅刻はしても定時退社か」などと上司が嫌味を言いたくなる気持ちもわかるが、こればかりは仕方がない。だがそんな母子の前に、突然180年前の江戸時代から木島安兵衛という侍がタイムスリップしてくる。あれこれ手をつくした末に元の時代には戻れないと観念した安兵衛は、他に頼るあてもなくひろ子の部屋に居候することに。「ひろ子殿がお勤めとあらば、奥向きのこと一切はそれがしがお引き受け申す!」と炊事洗濯から保育園の送り迎えまで、安兵衛が担当してくれるのでひろ子は大助かり。友也も安兵衛になついていつしか本当の家族のような関係になっていく3人暮らし。凝り性で几帳面な安兵衛は、やがて洋菓子作りにはまってママ友仲間からも評判の腕前となり、ついにはテレビのお菓子作りコンテストの出場することになったのだが……。

 現代にタイムスリップした侍が見慣れぬ未来世界の様子に戸惑いつつ馴染んでいくという、設定としてはSF仕立てコメディ映画。しかしこの物語の下に、女性が社会で働くとはどういうことか、子供を育てるとはどういうことか、そもそも仕事と家事は両立し得るものなのか、男らしさとは何か、母とは何かなど、現代社会が否応なしに突きつけられているさまざまなテーマが横たわっている。特に映画の中で大きく扱われているのは、「仕事=お勤め=表向きの仕事」と「家事・育児=奥向きの仕事」の対立だ。女性が働くのが当然とされ、夫婦共働きが当たり前になっている中で、それでも家事や育児は女性まかせにさせられてしまう現実。働き手としての女性を求める企業が、女性社員には結婚も子育ても放棄しろとでも言わんばかりの態度を示す現実。表向きの仕事も大事だが、奥向きの仕事も大事。その両方をどうバランスよく両立させていくのか、あるいはこのふたつは両立できないものなのか。

 しかし映画はそれに明確な答えを出さないし、こうすればいいという提案もしてくれない。安兵衛は現れた時と同じように遊佐母子の前から姿を消してしまうのだが、もし安兵衛がひろ子たちと再び生活を共にした時、そこにどんな「家庭」が作られたのかを、僕はまったくイメージできないし、観客にそれをイメージさせるだけの手がかりも映画は与えてくれない。ひょっとするとこの映画の作り手たち自身が、安兵衛とひろ子のその後の共同生活をイメージできなかったのではないだろうか。安兵衛が再び江戸時代に戻ってしまった理由は、じつはそんなところにあるのかもしれない。

 安兵衛とひろ子の関係が、恋愛方面に向かいつつ曖昧にされてしまうのも、この映画の「結論」がボンヤリしてしまった原因かもしれない。安兵衛はひろ子をどう思っていたんだろうか?

7月31日公開 恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:ジェイ・ストーム
2010年|1時間48分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.c-purin.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ちょんまげぷりん
シナリオ:ちょんまげぷりん
原作:ちょんまげぷりん(荒木源)
関連書籍:ちょんまげぷりん的サムライ男子~錦戸亮ビジュアルフォトブック~
エンディングテーマ「Remember You」収録CD:GOD(忌野清志郎)
関連DVD:中村義洋監督
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関連DVD:ともさかりえ
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