蛇のひと

2010/08/06 SPE試写室
部長の自殺後、行方不明になった課長はどこに消えた?
人間の心の闇の深さを感じさせるミステリー。by K. Hattori

Hebinohito  三辺陽子はアラフォーの独身OL。勤めている商社では上司の今西課長について営業事務の仕事をしている。平凡で毎日が淡々と過ぎてゆく日々。だがそんな平凡な日常は、ある朝突然終わりを告げる。今西の上司である伊東部長が突然自殺し、今西課長が姿を消したのだ。伊東部長の遺品からは、今西係長が会社の金1億円を横領着服した証拠書類が出てきた。課長は使い込みがばれたことから、部長を殺して逃亡したのか? 会社は今西直属の部下だった陽子に、行方をくらました今西の捜索を命じる。陽子は今西のプライベートを何も知らないことに愕然とするが、彼の過去の足跡をたどって歩く内に、自分が思いもよらなかった今西の別の顔を知ってさらなる衝撃を味わうことになる。はたして今西は部長の死とどんな関係があるのか? 1億円の行方は? 今西はなぜ姿を消したのか? そして今西由紀夫とは、いったい何ものなのか?

 主人公の三辺陽子を永作博美が演じ、謎の多い今西を西島秀俊が演じている。キャラクターとしての輪郭が鮮明な永作に対して、西島は曖昧模糊としてボンヤリとした印象の俳優。(どんな役でも演じてしまうカメレオン俳優なので、これといった明確なイメージがないという意味。)そんなふたりのキャラクターが、この映画を面白くしている。映画を観ているうちに、今西のイメージが二転三転してゆくのだ。西島秀俊が持ち合わせている曖昧さが、どんな「今西」でもそのまま受け止めて消化してしまう。

 物語の冒頭で主人公が姿を消し、残された関係者たちが消えた人物についてインタビューに答えていくという構成は『市民ケーン』と同じだ。もちろん『蛇のひと』と『市民ケーン』はまったく違う別の映画だ。『市民ケーン』のインタビューアーは匿名の新聞記者だが、『蛇のひと』のインタビューアーは永作博美扮するしっかりとキャラクターの書き込まれたヒロインだ。『市民ケーン』の主人公チャールズ・フォスター・ケーンは世界的な新聞王で故人だが、『蛇のひと』の今西課長は目立たない市井の市民で生きている。だがインタビューアーが関係者を取材するうちに、それまで信じられていた主人公像が少しずつ変質して、真相がますます見えなくなっていくという点は共通している。『蛇のひと』の巧妙なところは、関係者の多くが「彼はいい人だ」「彼には感謝している」と口を揃えるところ。しかしこれが、じつはまったく的を射ていない人物評だということが後々明らかになってくる。『市民ケーン』は新聞業界の大物というモンスターの中から、インタビューが隠されている弱さや人間くささを探り出していく物語だった。しかし『蛇のひと』はその逆で、善良で優しい好人物の中から、得体の知れないモンスターが飛び出してくる。

 WOWOWのテレビドラマとして既に放送されている作品だが、これは映画としても見応えがあった。

9月25日公開予定 角川シネマ新宿、シネプレックス系にて限定ロードショー
配給:角川シネプレックス 宣伝:スキップ
2010年|1時間42分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.wowow.co.jp/dramaw/hebi/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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