死刑台のエレベーター

2010/07/21 松竹試写室
用意周到な完全犯罪はエレベーターの停止によって挫折する。
ルイ・マル監督25歳のデビュー作。by K. Hattori

死刑台のエレベーター  ルイ・マル監督が1957年に製作したデビュー作。1932年生まれのマル監督は、この映画の製作時わずか25歳だった。それでいてこの完成度。今観てもそのとんがり具合が半端ではない、しびれるようなカッコ良さだ。モノクロームのざらついた画面。説明的な台詞を削って、映像そのものに語らせる脚本と演出。モダンジャズの巨匠マイルス・デイビスが、映画のラッシュに合わせて即興で演奏したという「伝説」を生み出したサウンドトラック。じつは今回初見だったのだが、これにはしびれた。

 戦争の英雄ジュリアンはフランス有数の軍需企業で社長の側近として働きながら、社長夫人フロランスと関係を持っていた。愛し合うふたりは社長の殺害を計画する。ジュリアンがオフィスの窓から社長室に侵入し、フロランスが自宅から持ち出した銃で自殺に見せかけて社長を殺すという完全犯罪だ。ジュリアンは社長の殺害に成功。だが些細な手違いから、ビルのエレベーターに閉じ込められてしまう。待ち合わせの場所に現れないジュリアンに、フロランスは疑心暗鬼になる。彼は夫を殺せなかったに違いない。私を捨てて別の女と遊び回っているのかも。フロランスはジュリアンを捜して、夜の街をさまよい歩く。同じ頃、ジュリアンの車を盗んでドライブに出かけた若いカップルは、ダッシュボードに隠してあったジュリアンの拳銃を発見する……。

 入念に準備された完全犯罪が、小さなほころびから破綻するというお決まりの物語。(この映画自体がその手の物語の古典ではあるのだが……。)しかし映画のテーマは「殺人事件」そのものより、夫殺しというぎりぎりの選択をしたヒロインの心理にある。もちろん社長殺しの実行犯はジュリアンで、映画序盤はジュリアンが物語の主役のようにも見える。だが彼は社長殺しを実行した後すぐにエレベーターに閉じ込められてしまい、その後は何をするでもなく(いろいろと脱出は試みるのだが)朝までエレベーターの中で過ごすしかない。一方ジュリアンをただ待つしかないフロランスは、この間に積極的に街を歩き、車を盗んだカップルが起こした事件を解決するなど大活躍。この映画は彼女の語りから始まり、夜の街をさまよう彼女のモノローグで中盤が彩られ、映画のラストも彼女のモノローグで締めくくられるという構成になっている。この映画の本当の主人公はフロランスなのだ。

 傑出したスタイルを持つ映画ではあるが、人間ドラマとしてはそのスタイル自体が制約になって底が浅くなっているようにも思う。切れ味鋭いカミソリのようなもので、それだけでは相手に致命傷を負わせられないのだ。もとよりこれは25歳の若者が撮った映画であって、人間心理のひだを濃密に描いていくより、むしろスタイルやテクニックを全面に押し出して行くところに狙いがあったのだろう。この映画は今年日本で再映画化されている。そちらも楽しみだ。

(原題:Ascenseur pour l'echafaud)

10月公開予定 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:ザジフィルムズ
1957年|1時間32分|フランス|モノクロ|1:1.66
関連ホームページ:http://www.zaziefilms.com/shikeidai/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:死刑台のエレベーター【HDニューマスター版】 [DVD]
サントラCD:死刑台のエレベーター(マイルス・デイヴィス)
サントラCD:Ascenseur Pour L'Echafaud
原作:死刑台のエレベーター【新版】 (創元推理文庫)
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