朱鷺島

創作能「トキ」の誕生

2010/05/27 映画美学校試写室
佐渡の能舞台で新作能が上演されるまでのドキュメント。
まるで和製バックステージ・ミュージカル。by K. Hattori

Tokijima  新潟県・佐渡は能舞台の多い島として知られている。日本全国の3分の1以上とも言われる30以上の能舞台が、今も佐渡島に現存しているのだという。佐渡は室町時代に能を大成した世阿弥が流された土地でもあるが、佐渡の能がここまで盛んになったのは江戸時代になってから。初代佐渡奉行の大久保長安は能楽師出身で、この島に多くの能楽師を引きつれて赴任してきたのだという。武家に伝わる神事として佐渡に定着した能は、やがて庶民にも広まり各地に能舞台が作られた。かつてはほとんどすべての村や小集落にも、各村自慢の能舞台が作られていたのだという。

 佐渡市相川の春日神社は佐渡の能の発祥地とされるが、能舞台は明治時代に老朽化のため消滅していた。だが2006年、地元有志たちが他の集落で使われなくなっていた能舞台を譲り受け、春日神社の能舞台が復活することになった。そのこけら落とし公演を佐渡市から依頼されたのは、観世流能楽師の津村禮次郎。彼は佐渡にちなんだ新しい演目を、この新しい能舞台で披露しようと決意。佐渡を象徴する鳥であるトキを題材にして、創作能「トキ」を作り出す。この映画は「トキ」上演までの津村禮次郎に密着し、新しい舞台芸術作品が生み出されていく過程を記録したドキュメンタリー映画だ。監督は若い面打師・新井達矢を取材したドキュメンタリー映画『面打/men-uchi』を通じても津村氏と交流のあった三宅流。

 映画の中では完成した新しい能の上演風景も収録されているが、僕自身は能というものにまったく疎いこともあって、むしろ映画の大半を費やされている「メイキング」の部分を面白く観ていた。能というのは歌があり、台詞があり、楽器の演奏があり、踊りがあるという、いわば純日本製のミュージカルなのだ。つまりこの映画は、新しいミュージカルの上演に向けて、出演者やスタッフたちが突き進んでゆく様子を描いた「バックステージ・ミュージカル」というわけ。古くは『ブロードウェイ・メロディ』や『四十二番街』から始まり、『雨に唄えば』や『イースター・パレード』『バンド・ワゴン』といった名作を生み出したジャンル。ドキュメンタリーという意味では、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』や『E.YAZAWA ROCK』と同じだ。ジャンルはまったく異なるが、本番前の稽古や直前のリハーサルから本番舞台が作り出されていくワクワクドキドキするような緊迫感は、この映画でもまったく同じように味わうことができる。

 小学生たちが書いたトキについての詩をもとにした創作能「トキ」だが、当の小学生やその周辺の人たちが舞台を観た感想を最後にインタビューで拾ってほしかった。ひょっとすると取材は行われていて、小学生たちにはあまり芳しい反応ではなかったのかもしれないが、それはそれで映画としては一興だったような気もする。

7月31日〜8月20日公開予定 ポレポレ東中野(モーニングショー)
配給:「朱鷺島〜ときじま」上映委員会
2007年|1時間21分|日本|カラー|4:3
関連ホームページ:http://www.tokijima.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:朱鷺島〜創作能「トキ」の誕生
関連DVD:三宅流監督
関連DVD:津村禮次郎
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