バード★シット

2010/05/11 京橋テアトル試写室
1970年製作のロバート・アルトマン監督作品。
コミカルだが痛々しい青春ファンタジー映画。by K. Hattori

Brewster_mccloud  世界初のドーム球場として知られる、テキサス州ヒューストンのアストロドームが完成したのは1965年のこと。SF映画から抜け出してきたような未来的外観から、当時は世界8番目の不思議と呼ばれたそうだ。最近はドーム球場も珍しくないが、2005年にハリケーン・カトリーナでアメリカ南部が大きな被害を受けた際は、アストロドームが避難所として使われ、世界中にその様子が配信された。『バード★シット』はそのアストロドームが作られてまだ間もない1970年に製作された、ロバート・アルトマン監督の青春ファンタジー映画だ。実験的な作風であまり規模の大きな映画とも思えないのだが、IMDbを観ると当時はこんなものも70mmにブローアップして上映していたらしいことがわかって驚いてしまう。なんだかバカバカしい話のようにも思うけれど、クライマックスの飛翔シーンは巨大画面で観るとそれなりのカタルシスがあったかもしれない。

 原題は『ブルースター・マクラウド』で、これは主人公の青年の名前だ。彼はアストロドーム地下にある秘密の核シェルターに隠れ住み、まったくの独力で鳥のように飛翔する機械を作り出そうとしていた。同じ頃、ヒューストン各地で連続絞殺事件が起きていた。警察は犯人探しに躍起になるが、手がかりは犯行現場に必ず落ちている鳥の糞だけ。(これが邦題の根拠になっている。)地元の有力議員は人気取りのためサンフランシスコの腕利き刑事を私費で呼び寄せ、事件の捜査に当たらせる。ブルースターの飛行装置作りはいよいよ佳境に入るが、そんな彼を見守り保護するのは年上の美しい女性ルイーズ。彼女はブルースターが夢を実現するためにも、他の女性に決して心を許してはならないと警告する。しかしブルースターはドームの案内係スザンヌと親しくなり、彼女と関係を持ってしまうのだった……。

 物語を断片的に解体した上で並行して進行させたり、フィルムスピードを変えたり、音楽や台詞を大げさにかぶせたりして、映画全体がギクシャクした印象になっているがこれは意図的なもの。同時期のゴダール作品の影響などもあるのだろうが、こうした手法がメジャーの大作映画の中で堂々とまかり通っていたというのは、それはそれで幸福な時代だったようにも思う。既存の映画文法をあえて無視し、ぶっ壊そうとしていた時代。この頃はぶっ壊すこと自体に意味があったのだろう。結果として出来上がった映画は、語り口としてかなり奇抜で刺激的なものになっている。しかしこうした表現が、その後の映画で主流になることはあり得ない。映画表現は結局のところ、古典的ハリウッド映画の文法に再度取り込まれていく。

 アストロドームが巨大な鳥かごに変貌するラストシーンは、この映画の表現技法とは別のレベルで衝撃的。地下の穴蔵を抜け出しても、そこにあるのは出口なき鳥かご。自由を得るための翼を手に入れても、本当の自由はそこにないのだ。

(原題:Brewster McCloud)

7月3日公開予定 新宿武蔵野館
配給:日本スカイウェイ、アダンソニア
配給協力:コミュニティシネマセンター 宣伝:メゾン
1970年|1時間45分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|モノラル
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連DVD:バード★シット
関連DVD:ロバート・アルトマン監督
関連DVD:バッド・コート
関連DVD:サリー・ケラーマン
関連DVD:マイケル・マーフィ
関連DVD:ウィリアム・ウィンダム
関連DVD:シェリー・デュヴァル
関連DVD:ステイシー・キーチ
関連DVD:ルネ・オーベルジョノワ
ホームページ
ホームページへ