群馬の田舎町で父の営むコンニャク製造所を手伝うアユムは、最近ちょっと嬉しいことがあった。それは高校時代の親友みっつーが、東京から群馬に戻ってきたこと。アユムとみっつーは高校時代、近くの河原で行われた伝説のDJ・タケダ先輩(TKD)の屋外ライブに感動し、5人組のHIPHOPグループ「B-HACK」を結成して活動していた仲間だ。「またあの頃みたいに、B-HACKで歌おうよ!」と昔の仲間たちに声をかけるアユム。しかしみっつーが帰ってきたのは旅館の女将だった母が莫大な借金を抱えて夜逃げした後始末のためだし、まみは場末のソープ嬢になっている。しかし群馬でこれといった楽しみもなかった旧メンバーたちは、アユムの呼びかけに躊躇しながらも、埼玉からタケダ先輩を慕ってやって来た二人組のラッパーに挑発されるようにB-HACKを再結成するに至る。目指すはタケダ先輩がライブを行った聖地として、北関東のHIPHOPファンに語り継がれている河原での屋外ライブ。ところがその準備には100万円の金がかかるという。5人はバイトでその金を作ろうとするのだが……。
2009年に公開され、入江悠監督が日本映画監督協会新人賞を受賞したインディーズ映画『SR サイタマノラッパー』の続編。一部では猛烈に話題になった映画らしいが、僕はこの1作目を観ていない。とはいえ「続編」といっても今回の映画は前作と世界観を共有し、一部のキャラクターに接点がある程度で(埼玉からやって来た二人組のラッパーが前作の主人公たちらしい)、今回の映画だけでも独立した1本の作品として成立している。
高校生の頃は誰しも未来に「夢」を持つが、学校を卒業して社会に出てしばらくすると、そんな「夢」はどこかに消えてしまう。日常の中に埋もれて、毎日生きていくのが精一杯になってしまうのだ。昔は未来がもっとキラキラ輝いていたはずなのに、今は生活のどこにも輝きなんてありゃしない。何者でもない若者たちが、何者かになろうともがく姿を描くのが青春映画。それは夢に向かってじたばたすることでもいいし、自分を取り囲むうっとうしい日常から脱出するための戦いでもいい。何にせよ若者が「何者でもない自分自身」から、「何者か」になろうとするなら、それは青春映画としての条件を兼ね備えていると言っていい。しかしたいていの大人たちは、そんな青春のもがきを経験しないまま、何となく周囲に流されて大人になってしまうのだ。この映画のヒロインたちはそんな「青春のもがき」を、もう一度やり直そうとする。
もがく姿は格好悪い。もがくことが社会的に許容されている思春期ならともかく、20代半ばを過ぎたいい年の大人がもがくのは世間から「いかがなものか」と後ろ指を指されもする。この映画でそれがピークに達するのは、法事の席で親戚一堂が集まっている中で、ヒロインが突然ラップを歌い始めるシーンだろう。このシーンはとてつもなく格好悪い。でもそこに青春の輝きが満ちている。
DVD:SR2 サイタマノラッパー2
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