小さな命が呼ぶとき

2010/05/07 SPE試写室
難病のわが子を救うため自ら製薬会社を立ち上げた男。
実話をもとにした医療業界ドラマ。by K. Hattori

Extraordinary Measures  ポートランドに住むジョン・クラウリーは、製薬会社で営業とマーケティングを担当するエリート・ビジネスマンだ。だが彼にはポンペ病という難病に冒されたふたりの子供がいる。この病気には有効な治療法がなく、患者である子供たちは10歳にもならずに死んでいく。ジョンの子供たちに残された時間はもうほとんどない。彼はなんとか子供たちを助けたい一心で医学書や論文を読みあさり、この分野で最先端の研究を行っているのがロバート・ストーンヒル博士であることを知る。だが難病ではあっても患者数の少ないポンペ病研究には、博士の勤務する大学もほとんど予算を割いてくれない。なんとか彼に薬を作ってほしいと願うジョンは、患者たちに声をかけて財団を立ち上げ、博士の研究費を集めようとするがあまり上手く行かない。外部からの援助には限りがあるのだ。そんなジョンに博士は「一緒に製薬会社を立ち上げて薬を作ろう」と思いがけない提案をしてくる。

 実話を元にした物語で、映画の主人公ジョン・クラウリーは実在の人物。ストーンヒル博士は、薬の製造に協力した複数の科学者たちを組み合わせて作られたキャラクターだという。ポンペ病の治療薬にはジェンザイム社のマイオザイムという薬が使われるのだが、映画はこの薬が開発される過程を描いている。マイオザイムは2006年にアメリカとヨーロッパで発売され、日本でも翌年から発売されているごく新しい薬だ。映画は薬の開発にまつわる技術的な事柄にはあまり踏み込まず(踏み込んでも技術的なことはチンプンカンプンだけど)、人間ドラマ中心に展開していく。それは家族の物語であり、個人と個人の衝突の物語であり、個人と企業の物語でもある。幼い子供を救いたいという家族の物語も感動的だが、映画を観ていて面白かったのは、主人公たちが大学の研究室で作られた「理論」を実際の「薬の販売」にいかに結びつけていくかという過程だ。

 主人公たちが投資会社にプレゼンに行くと、相手が科学者も顔負けの知識を有していて(本人たちは自分たちを科学者だと言っているが実態は投資家以外の何者でもないことが後に明らかになる)、プレゼンの中で曖昧な点や弱点と思われる点に情け容赦なく疑問や批判の声をぶつけてくる。ベンチャー・キャピタルというのは、相当に専門的な仕事だということがこの映画を観るとわかるのだ。主人公たちが研究のスピードと効率化のため、作ったばかりの会社を大手製薬会社に身売りするエピソードも印象的。倉庫を改造したような小さな会社が、あっと言う間に従業員数十倍の大会社に変貌してしまうのには驚いた。これがM&Aのパワーだ。

 病気の子供を持つ親が独学で薬を作ってしまう実話の映画化としては『ロレンツォのオイル』があったが、今回の映画はそれよりずっと生々しい「お金」のからむリアルな物語。病院を舞台にした映画は山のようにあるが、製薬業界を舞台にした映画は珍しい。

(原題:Extraordinary Measures)

7月公開予定 TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2010年|1時間45分|アメリカ|カラー|1.85:1|ドルビー・デジタル、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://www.papa-okusuri.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:小さな命が呼ぶとき
原作:小さな命が呼ぶとき(ジータ アナンド)
関連DVD:トム・ヴォーン監督
関連DVD:ブレンダン・フレイザー
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