ブライト・スター

いちばん美しい恋の詩

2010/04/01 ショウゲート試写室
英国ロマン派の詩人ジョン・キーツの伝記映画。
ジェーン・カンピオン監督作品。by K. Hattori

Bright Star  19世紀に花開いたイギリスのロマン派文学を代表する天才詩人ジョン・キーツ(1795-1821)の短い生涯を、婚約者ファニー・ブローンの視点から描いた伝記映画。監督は『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン。彼女にとってこれは2003年の『イン・ザ・カット』以来、久々の長編監督作になる。主人公のジョン・キーツを演じているのは『パフューム/ある人殺しの物語』のベン・ウィショー。ファニーを演じるのは、『プロヴァンスの贈りもの』や『エリザベス:ゴールデン・エイジ』にも出演していたオーストラリアの若手女優アビー・コーニシュ。

 この映画の良さは、まず第一に美術・衣装・撮影などで完璧に再現された19世紀初頭の世界にある。時代考証がどうこうなどと詳しいことはわからないが、映画を観ているとまるで実際にこのような風景が今でも存在していて、そこにただカメラを持ち込んで撮影して戻ってきたかのようなリアリティがあるのだ。映画の中の風景というのは、通常はその物語を「説明」するために用意されている。風景は物語に従属する存在であり、観客がより深く物語を理解するために機能している説明用の符丁や記号なのだ。しかし通常の人間が暮らしている世界というのは、そういうふうにはできていない。風景はそこに人間がいようがいまいが勝手に存在しているのであって、人間はその風景の中に間借りし、通り過ぎてゆく存在なのだ。この映画の中に描かれる風景と人間の関係は、まさにそんな感じになっている。風景の存在感が大きすぎて、人間が浮いているというわけではない。その風景の中にある空気を呼吸しながら育った人間が、まさにその場に存在しているという雰囲気が感じられるのだ。

 映画のもうひとつの良さは、この映画の中でジョン・キーツという「天才」が、純粋ではあるがエキセントリックな「他者」として描かれていることだ。たいていの偉人伝では、天才的な能力を持つ人間の劣っている点を「人間味」としてクローズアップすることが多いのだが、それは結局天才を凡人と同じレベルに引きずり下ろしてしまうことになる。天才の内面など凡人にはうかがい知れない。だから天才を天才として描くには、その周囲にいる第三者の視点を借りるしかない。例えば『アマデウス』におけるサリエリはそうした視点を提供する人物だ。この映画では天才キーツを描くために、婚約者のファニーを登場させる。映画はファニーの内面を掘り下げるが、キーツについてはファニーの視点を通してしか描くのみだ。キーツと親しい人たちのキーツ評も、やはりファニーの視点を通してしか描かれていない。それはもう、徹底しているのだ。

 激しい恋愛が死によって引き裂かれるというドラマチックな物語にもかかわらず、全体的に抑制されたタッチで淡々と進行するのもいい。キーツとファニーが最後に共に夜を過ごすシーンや、キーツの死を知ったファニーが泣き崩れるシーンが胸を打つ。

(原題:Bright Star)

初夏公開予定 Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか
配給:ピックス 宣伝:樂舎
2009年|1時間59分|イギリス|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ブライト・スター/いちばん美しい恋の詩
サントラCD:Bright Star
関連書籍:ジョン・キーツ
関連DVD:ジェーン・カンピオン監督
関連DVD:ベン・ウィショー
関連DVD:アビー・コーニシュ
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