美と芸術の上海アニメーション

(プログラムA)

2010/03/18 京橋テアトル試写室
上海美術電影製作所で製作された短編5本を紹介。
僕は「火童」がとても気に入った。by K. Hattori

Bitogei  1957年に設立された中国の国立アニメーションスタジオ、上海美術電影製片廠(上海美術映画製作所)の代表作12本の特集上映。劇場ではA・B・Cという3つのプログラムに分けて上映が行われるが、今回試写が行われたのは日本で映画館初公開だった5本の作品を集めたプログラムA。5本とも既にジェネオンから発売されているDVD「上海美術電影作品集」に収録されている有名な作品ばかりだが、これは評価が高い名作ぞろいという意味でもある。

 プログラムAの5本は、1962年に製作された水墨画アニメ「おたまじゃくしが母さんを探す」、80年のセルアニメ「三人の和尚」、83年の切り紙水墨画アニメ「鴫(しぎ)と烏貝」、84年の切り紙アニメ「火童」、85年のセルアニメ「鹿を救った少年」。今回試写がなかった7本は、プログラムBが79年製作の大作アクション「ナーザの大暴れ」、81年の切り紙アニメ「猿と満月」、82年の水墨画アニメ「鹿鈴」の3本、プログラムCが88年製作の人形アニメ「不射之射」、63年の水墨画アニメ「牧笛」、83年のセルアニメ「胡蝶の泉」、88年の水墨画アニメ「琴と少年」の4本になる。プログラムB・Cの7本は以前「上海アニメーションの奇跡」という特集上映で観ているが、「ナーザの大暴れ」は大画面で観ておいた方がいい作品だと思う。

 今回観た5作品の中では、「火童」が一番面白かった。悪の大王が人間の世界から火を奪い去ったことから、人間たちの生活は困窮していた。大王から火を取り戻すべく、ひとりの男が旅立ったが行方不明になる。それから10年がたち、男の息子が再び大王のもとに火を奪い返す旅に出る。人物と背景が同じような密度で描き込まれていて、動きがなければおそらく登場キャラクターがどこにいるのかすぐにはわからないだろう。そこに動き回るキャラクターのデザインがまたいい。川の水の女神や、魔法で姿を変えられていた少女などの肉感的なフォルムがエロチック。話の内容云々より、この少女キャラだけで僕はOKだ。

 「おたまじゃくしが母さんを探す」は、水の中を泳ぎ回るおたまじゃくしたちの動きのリアルさにびっくりした。たぶんアニメーターたちは、何時間も何日も水槽や水たまりの中のおたまじゃくしをながめてあの動きを生み出したに違いない。「三人の和尚」は漫画映画ならではの動きの面白さという点で、今回観た5作品の中では最高のできだった。ノッポ、デブ、チビという、わかりやすい三者三様のキャラクターが、音楽に合わせてじつによく動く。台詞なしで動きだけですべてを表現させているのもいい。「鴫と烏貝」はいわゆる「漁夫の利」のもとになった例え話の映像化。シギと争っているのがハマグリではなく、カラスガイになっているのは別に間違いじゃない。「鹿を救った少年」は少年の顔立ちが、つげ義春の「ねじ式」みたいだなあ……と思いながら観ていた。

5月1日〜22日公開予定 新宿K's cinema
配給:ワコー、グアパ・グアポ
1962〜1985年|1時間34分|中国|カラー|スタンダード
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:上海美術電影作品集
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