幸福の黄色いハンカチ

デジタルリマスター

2010/02/17 松竹試写室
ハリウッド版公開に合わせてオリジナルをリバイバル公開。
何度観ても面白い、よくできた映画だ。by K. Hattori

幸福の黄色いハンカチ [DVD]  アメリカの人気コラムニスト、ピート・ハミルが書いた文庫本にしてわずか数ページの物語を原作に、山田洋次が監督したヒューマンドラマの傑作。この映画を、僕は最初に中学校の体育館で観た。学校の課外授業で、16ミリフィルムを借りてきて全校生徒が観るようなことが当時はあったのだ。今からちょうど30年ぐらい前。この映画が製作されてまだ数年後だったが、正直言うと僕は最初この映画を小馬鹿にしていた。当時既にこの映画は「名作」と呼ばれていたのだが、中学生が「名作」なんてものを有り難がるはずがない。でも映画は無理矢理観させられた。反抗期の出来の悪い中学生と言えども、映画を観るのをボイコットするほどの度胸はなかったのだ。

 映画には感動した。映画の前半、武田鉄矢演じる若者がナンパした女の子の尻を追いかけ回して繰り広げるドタバタには大いに笑った。「あたし、処女じゃないわよ」「俺だって処女じゃないよ!」に爆笑した。カニにあたって腹を下した武田鉄矢が、ティッシュの箱を抱えて草むらに突進する姿を観て、こちらは腹を抱えて笑った。だが映画の中盤に差し掛かり、高倉健が殺人犯だったと知ってドキリとした。そわそわした落ち着かない気持ちは、彼が引っ張られていった警察で昔なじみの警官役の渥美清が出てくると少しほころんだ。主人公たち3人は再び車に乗り、そこから高倉健の思い出話がはじまる。もう若くはない男と女の、不器用な恋物語だ。それだけに、ようやく手に入れた幸福な暮らしがあっと言う間に壊れてしまうのは悲しかった。映画の中で高倉健の打ち明け話を聞いた武田鉄矢と桃井かおりが涙ぐんでいたように、映画を観ていた中学生の僕も涙ぐんでいたと思う。3人の旅は続く。高倉健は最初「夕張に行く」と言っていた。そこに何がある? 男は少し照れくさそうに話し始める。

 今回のリバイバル公開は「デジタルリマスター」のお披露目も兼ねてはいるが、実際はようやく日本公開のめどが付いたハリウッド版リメイク『イエロー・ハンカチーフ』の公開に合わせてのものだ。この映画は中学時代の初遭遇以来、その後も何度か観ている。それでも今回改めて映画を観て、その語り口の上手さに感心してしまうのだ。映画の前半、高倉健の脳裏にフラッシュバックする妻・倍賞千恵子の姿。彼女はいつでも「おかえり」「おかえりなさい」と夫を迎え入れてくれる。これをいろいろなパターンで、何度も何度も積み重ねていく効果は大きい。前半では高倉健の過去をほとんど語らせず、後半になって過去語りを積み重ねていく構成。武田鉄矢と桃井かおりの関係を、少しずつ接近させていくエピソードの繋ぎ方も上手い。そして映画全編を通して丁寧に描かれる北海道の四季。ラストシーンの黄色いハンカチを登場人物たちより先に観客に見せる、ちょっとした間の使い方のテクニック。古典となった作品は、いつ観ても新しい発見があるものだ。

4月10日公開予定 東劇ほか全国順次公開
配給:松竹
2010年(1977年)|1時間48分|日本|カラー|シネスコ
関連ホームページ:http://www.yellow-handkerchief.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:幸福の黄色いハンカチ
DVD:KADOKAWA世界名作シネマ全集〈第12巻〉
シナリオ:山田洋次作品集〈4〉
原作:ニューヨーク・スケッチブック(ピート・ハミル)
関連DVD:山田洋次監督
関連DVD:高倉健
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