恋するベーカリー

2010/01/20 東宝東和試写室
10年ぶりに焼けぼっくいに火が付いた元夫婦のドタバタ劇。
ナンシー・マイヤーズ監督の名人芸。by K. Hattori

Koisuru  10年前に離婚した後、女手ひとつで3人の子供たちを育て上げ、開店したベーカリーの経営も軌道に乗せたジェーン。浮気して家を出た元夫ジェイクとは今でも「子供たちの父親」として顔を合わせる間柄だが、10年前に受けた心の傷も最近ようやく癒えてきた。長女の結婚、下の子供の学校卒業、家の改築と、何かと忙しく、幸せな毎日ではあるのだ。ところがそんな毎日に、大事件が起きる。息子の卒業式に出席するためNYにホテルを取ったら、なんとそこでジェイクと鉢合わせ。少々気まずい雰囲気のままホテルのバーで飲んでいたら、そこでもまたまた彼とかち合ってしまう。仕方なく一緒に飲み始めれば、それは何十年も前からの付き合いだから、積もる話もあれば、話も弾む。10年の月日がふたりの間にあったわだかまりを押し流して、気がついたときにはふたりはベッドの中で一戦終えた後だった。元夫ではあるが、ジェイクは今では結婚している身。元夫と関係を持っても、これってやっぱり不倫なの?

 邦題の『恋するベーカリー』はちょっと月並みで間抜けなタイトルだし、映画の中身をまるで表していない。そのもそもパン屋のシーンなんて、映画の中にはほとんど出てきやしない。原題は『It's Complicated』で、誰かに何か説明を求められたときに「まあ、いろいろとあって複雑なんだよね〜」などと言葉を濁すときの慣用句。この映画ではメリル・ストリープとアレック・ボールドウィン扮する元夫婦が、「いろいろと複雑」な事情に自らを追い込んでいく。もとはといえば不倫略奪愛で夫を愛人に奪われたヒロインが、その夫を再度不倫略奪愛で奪い返すというような単純な話でもない。元夫のジェイクは新しい妻の連れ子を憎々しげに思いながら、じつはその子供に深い愛情を感じていたりもする。ヒロインのジェーンは元夫との情事にのめり込みながら、かつてのような夫婦関係が取り戻せっこないことを感じているし、新たに知り合った建築家アダム(スティーブ・マーティンが好演)との関係に安らぎを感じてもいる。子供たちは母親のことも父親のことも大好きだが、だからといって両親がそんな関係になっていることを知って喜ぶだろうか。すべては一筋縄では行かない、まさに「いろいろとあって複雑」なのだ。

 監督・脚本・製作は『ハート・オブ・ウーマン』『恋愛適齢期』『ホリデイ』のナンシー・マイヤーズ。もともと脚本家出身で人物造形が巧みな監督だが、今回の映画では娘の婚約者を演じたジョン・クラシンスキーにおいしい役を提供した。主人公である元夫婦たちと、まだ子供っぽい部分の残る子供たちの中間に立って、何の因果か主人公たちの秘密を真っ先に知ってしまってハラハラする役。この映画のスピード感と笑いのシャープさは、このキャラクターによるところが大きい。主人公たちが抱える「秘密」の重さを、この人物がずいぶんと軽やかにしてくれている。

(原題:It's Complicated)

2月19日公開 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和 宣伝:樂舎
2009年|2時間|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.koibake.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:恋するベーカリー
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スティーブ・マーティン
アレック・ボールドウィン
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