月に囚われた男

2010/01/18 SPE試写室
月面基地で起きた事故から目を覚ました男が出会った相手は?
地味だがSFらしさがあふれる作品。by K. Hattori

MOON: Soundtrack  今からそう遠くない未来。地球の文明を支えているエネルギー源は、石油や原子力から、よりクリーンなヘリウム3に移行していた。ただしそれが採れるのは月面だ。月の鉱物利権を持つルナ産業は、ほぼ無人化された燃料供給プラントを月に建設して、地球へのエネルギー供給を行っている。大規模な鉱物プラントを管理するのはたったひとりの作業員。現在この任務に当たっているサム・ベルは、この仕事について3年目。契約も間もなく切れて、じきに妻子の待つ地球に帰還できる予定だ。だがサムは月面で屋外作業中に事故を起こし、意識を失ってしまう。彼が基地の中で目を覚ましたとき、そこには自分と瓜二つのもうひとりの自分が立っていた……。

 サム・ロックウェル主演のSFスリラー映画。映画の世界に「SF」と称するものは多いが、ほとんどは「未来を舞台にしたアクション映画」のたぐいで、本当の意味でのSFらしさを感じさせる作品はそれほど多くない。しかしこの『月に囚われた男』は、そんな中では数少ない「ホンモノのSFのニオイ」を感じさせる作品になっている。『2001年宇宙の旅』や『サイレント・ランニング』『エイリアン』『ブレードランナー』などが好きな人は、きっと気に入るであろう作品。ミステリー映画ではないものの、あまり内容について語るのもこれから観る人の楽しみを奪ってしまいかねない。サム・ロックウェルの一人二役が、じつに上手いものだなぁとか、その程度のことしか言えない。映画の設定について幾つか疑問点もあるので、これについてはこの映画を観たSF好きの人とあれこれ話してみたい気もしている。ラストにもうひとひねり欲しかったような気がするが、それは設定やアイデアが魅力的な割にはオチが弱かったように感じるからだ。だがここでラストにひねりを入れるとハッピーエンドにならなくなってしまう。この映画には、このハッピーエンドが相応しいのかもしれない。

 監督のダンカン・ジョーンズはロック歌手デヴィッド・ボウイの息子で、CMやPVの監督を経て今回長編映画初監督となった。登場するのが実質主演のサム・ロックウェルひとり、場所もほとんどが月基地の内部に限定されていて、そこに宇宙人が責めてくるわけでもサイボーグが反乱を起こすわけでもなく、ただ淡々と時間が流れていくという地味な低予算映画。でもこの地味さが心地よい。考えてみれば『2001年宇宙の旅』だってずいぶんと地味な映画だ。『月に囚われた男』の地味さは、それに通じる地味さなんだと思う。この映画は昨年いくつもの映画祭に出品されて高い評価を受けたものの、アメリカでは劇場公開されることなくストレートDVDとして市場に出ている。なんともったいない。この映画は数年後にはカルトムービーになるだろう。その時「俺はこの映画をスクリーンで観た」と言えると、ちょっと格好いいかもしれない。僕は『ブレードランナー』について、いまだにそれで自慢している。

(原題:Moon)

4月公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2009年|1時間37分|イギリス|カラー|2.35:1|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://www.moon-otoko.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:月に囚われた男
DVD (Amazon.com):MOON
サントラCD:MOON
関連DVD:ダンカン・ジョーンズ
関連DVD:サム・ロックウェル
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