日本の映画の興行成績は、その映画をどこが製作し、配給しているかでだいたい決まる。日本映画の年間興行ランキングを見れば、それは誰の目にも明らかだ。テレビ局が出資し、東宝(あるいは松竹・東映)が配給すれば映画はヒットする。映画の完成度や面白さ以前に、テレビ局による大量宣伝と、大手配給会社による劇場確保がヒットの前提条件となる。そこから外れてしまった作品は、どれほど面白くても興行ランキングに名を連ねるのが難しい。本作『半分の月がのぼる空』も、そんな「難しい作品」のひとつだろう。出演者の顔ぶれにはメジャー感もあるし、映画の完成度も高い。しかしこの映画は興行で苦戦するだろう。映画をくさしているわけではない。この映画が大手配給の他の映画の陰でひっそり公開され、いつの間にかDVDになり、すぐ忘れられてしまうことを惜しんでいるのだ。
原作は電撃文庫で発行されたライトノベルで、その後コミック化、アニメ化、実写ドラマ化もされた人気作品だという。原作は2003年から06年にかけて発行されていて、コミック版やアニメ版、実写ドラマ版も2006年前後に発表されている。今回の映画はそれから数年遅れているわけで、映画の企画が「メディアミックス」といった戦略に立ったものではないことがわかる。監督は『60歳のラブレター』の深川栄洋。
物語は大まかに二部構成になっていると考えていい。前半は肝炎で入院することになった高校生・裕一が、手術のため転院してきた同い年の少女・里香と知り合って仲良くなる話。主人公を演じるのは池松壮亮と忽那汐里。これは十代後半の若い男女が繰り広げるボーイ・ミーツ・ガールの初恋物語であり、難病を抱えた少女と、彼女のために献身しようとする少年の純愛ドラマだ。といってあまりベタベタ甘ったるくならず、高校生たちの日常をサッパリと描いているのがいい。物語の舞台は三重県の伊勢だが、台詞の中にも方言をさりげなく取り入れ、「難病ドラマ」という非日常と地に足の付いた生活感が巧みに融合している。
そして映画は大泉洋に主役がバトンタッチする第二部に入るのだが、この瞬間に観客は一瞬戸惑い、やがて大きな驚きと衝撃を味わう。「そうか。そうなっていたのか!」という気づきによって、それまで観てきた映画の意味がすべてひっくり返り、その動揺が治まらぬうちに物語は怒濤のクライマックスになだれ込んで行くのだ。映画の後で原作について調べてみたが、この「仕掛け」は映画のオリジナルらしい。同じようなアイデアは他の映画やドラマなどでも観たことがあるような気がするが(例えば黒澤映画にも似たような構成の作品がある)、この映画はこの仕掛けだけで観客をどうにかしようという映画ではないところが好印象。この仕掛け以降のドラマにもたっぷりの見せ場があって、普段はコミカルなキャラで売る大泉洋が観客をたっぷりと泣かせてくれる。
DVD:半分の月がのぼる空
主題歌「15の言葉」収録CD:ポっぷ(阿部真央) 原作:半分の月がのぼる空(橋本紡) 原作(コミック版):半分の月がのぼる空 関連DVD:半分の月がのぼる空(アニメ版) 関連DVD:半分の月がのぼる空(ドラマ版) 関連DVD:深川栄洋監督 関連DVD:池松壮亮 関連DVD:忽那汐里 関連DVD:大泉洋 |