『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』のジュゼッペ・トルナトーレ監督が、故郷であるシチリア島パレルモ郊外の町バゲーリアを舞台に描く大作ホームドラマ。タイトルの『バーリア』というのは、バゲリーアの愛称だという。ホームドラマと言っても、この映画が描いている時間はかなり長い。1930年前後から現代までだ。トルナトーレ監督はこの時代の故郷を、自分自身の父親の視点から描いていく。
トルナトーレ監督は『ニューシネマ・パラダイス』に描かれた濃厚な「映画愛」と、戦後のシチリアを再現した時代描写のリアリティ、老成した演出タッチ、劇中でジャック・ペランが演じた主人公が映画監督だという類似性もあって、彼自身が映画の主人公トト少年の分身であるかのような印象を与えることもある。トトは戦争で父親を亡くしているのだから1940年前後の生まれだが、じつはトルナトーレ監督はそれよりずっと若い1956年生まれだ。『バーリア』の中では主人公の息子が、ちょうどトルナトーレ監督と同世代に設定してある。おそらくはこの息子の中に、監督自身がほぼ等身大に投影されているのだろう。映画にまつわるエピソードはそれほど多くないが、それでも『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿とさせる部分も多く、これを観るとやはりトト少年の中にもトルナトーレ監督の実体験が反映しているのだなぁ〜、と思ったりもするのだ。(『バーリア』だってフィクションなんだから、そこに出てくるエピソードがどれだけ本当かなんてわからないけどね。)
映画は家族の物語として観るとやや冗漫なところもあるのだが、この映画の本当の主役は「バーリア」という町そのもの。教会前の広場から町の中心を貫く一本道がこの映画の主な舞台であり、その街並みが1930年代から時代を経るごとに少しずつだが確実に変化し、町の規模も通りを中心に拡大していく様子が克明に描かれている。オープンセットとCGを組み合わせて作り上げた街並みだと思うが(『ALWAYS 三丁目の夕日』と同じ手法)、生活の中の一点を定点観測的に描写して時代の変化を浮かび上がらせていくという手法は『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じだ。しかしその規模はかなり拡張されている。『ニュー・シネマ・パラダイス』は1940年代後半から50年代までを描く回想部分と、成長したトトが故郷に戻ってくる1980年代の間に大きな断絶があったし、物語の中心となる場所も映画館とその近辺に限られていた。しかし『バーリア』が描く時間は1930年代から現代まで、ほとんど継ぎ目無しだ。映画の最後には車や人でごった返す現代の町の様子まで出てくる。故郷の町のたどった80年間の歩みを、父親世代の物語に置き換えて描いたのがこの映画なのだ。
『ニュー・シネマ・パラダイス』が好きな人なら、たぶん好きになること間違いなしの作品。日本で公開されることを期待する。
(原題:Baaria)
DVD:バーリア
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