ACACIA

2009/10/21 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Screen 3)
アントニオ猪木が俳優として初主演したヒューマンドラマ。
第22回東京国際映画コンペ作品。by K. Hattori

Acacia  小さな海辺の町に、長屋のように軒を連ねる古い公営住宅がある。住民は老人ばかり。定期的に役所の福祉担当者が様子を見に来るが、時には年寄りを食い物にしようと小悪党たちもやってくる。そこで老人たちに頼りにされているのが、同じ長屋に住む元プロレスラーの男、大魔神こと石田積治だ。巨体の大魔神が大声で一喝すると、借金の取り立てに来たやくざ者たちもひるんで逃げ出してしまう。そんな大魔神を慕って頻繁に長屋に出入りし始めるのが、いじめられっ子の小学生タクロウ。タクロウの母は恋人と旅行に出かけるため、息子を大魔神に押しつけて姿を消してしまう。こうして大魔神とタクロウとの、年の離れた親子にも似た二人暮らしが始まったのだが……。

 アントニオ猪木の本格的な俳優デビュー作として注目されながら、一般にお披露目される機会のなかった作品。原作・脚本・監督は辻仁成だが、彼は作家としての活動は「辻仁成(つじひとなり)」で行い、歌手や映画監督としての仕事は「辻仁成(つじじんせい)」で行うマルチアーティスト。今回の映画は映画祭出品作なので英語で字幕が付いていたのだが、原作は「Hitonari Tsuji」、監督は「Jinsei Tsuji」になってました。こういうのは日本語タイトルだけではわかりにくいので、今回は面白い物を見たと感心した次第。

 息子を亡くしている大魔神がタクロウに亡くなった息子の面影を求めつつ別れた妻との関係を修復していく話と、離ればなれに暮らしているタクロウと実父が再会して新しい父子関係を築いていく話が同時進行していく物語は、家族の再生物語としても少々甘ったるすぎて陳腐なものだと思った。特にタクロウと実父の話が嘘くさい。父親には既に別の家庭があって妻も子もいるのだ。彼がタクロウとべたべたしはじめることを、新しい家族はどう思うんだろうか。僕はここに物語やキャラクターのリアリティではなく、この映画の作り手である辻仁成の「個人的な願望」を感じてしまうのだ。彼は前妻である南果歩との間に長男がいるが、離婚後は離れて暮らしている。辻仁成は現在中山美穂と再婚してパリ在住、南果歩はその後、渡辺謙と子連れ再婚してロサンゼルスに住んでいる。映画を観て僕は「ああ、辻仁成は別れた子供のことが気になっているのだろうな」と強く感じたのだ。ただそれがあまりにも生々しく描かれていることで、映画の中のこのエピソードは物語の中で違和感の残るものになってしまっていると思う。

 映画にとって最大の見どころは、アントニオ猪木の俳優ぶりだろう。誰もが予想していることだろうが、猪木の芝居は大根もいいところ。しかしこの大根ぶりが、タクロウとの関係を手探りで作ろうとし、別れた妻と再会してぎこちなく接する大魔神の姿に重なり合う。映画現場におけるアントニオ猪木という「新人俳優」の戸惑いが、そのまま映画の主人公の戸惑いになっている。

第22回東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
2008年|1時間40分|日本|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=1
関連ホームページ:http://ameblo.jp/scandi/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ACACIA
原作:アカシアの花のさきだすころ―ACACIA―(辻仁成)
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