『山の郵便配達』のフォ・ジェンチイ監督最新作は、台湾を舞台にした小さな恋の物語。韓流エンタテインメントの紹介者として多方面で活躍している田代親世の原作・脚本を、中国のベテラン脚本家ス・ウが中国語版にしている。主演は台湾の人気若手俳優チェン・ボーリンと、中国の若手女優トン・ヤオ。物語はオリジナルだが、ベースになっているのはオードリー・ヘプバーン主演の『ローマの休日』だろう。ローマを訪問中に宿泊先を抜け出して街に飛び出していく若い王女様を、台北で売り出し中の若手歌手にして、グレゴリー・ペックが演じた新聞記者を田舎町で町の人たちから親しまれている気のいい青年に手直し。テレビや新聞で盛んに「新人歌手が謎の失踪」と報じている中、ヒロインがひとりで町をうろつくあたりは『ローマの休日』のまんまではないか。
ただしこの映画は、途中から『ローマの休日』を逸脱していく。身分を隠してこっそりと田舎町に逃げ出してきたはずのヒロインが、素顔も名前も明らかにして町の中を歩き始めるのだ。こんなことになれば、芸能マスコミの格好のえじきでは? そう、彼女の行方は早速マスコミの知るところとなる。ところがここから、話が不思議な方向に向かっていく。あれほどマスコミを騒がせていた「失踪事件」のはずなのに、ヒロインの行方を突き止めた記者が編集部に戻ると、もうその話に誰も興味を示さない。それではいったい、映画冒頭にあった騒ぎは何だったのか? 失踪して台湾中の耳目を集めていたかに思えた「新人歌手」は、ここから突然「まだ売り出し前の歌手のタマゴ」へと格下げされてしまう。これは明らかに脚本の不整合だ。これは台詞の一部が事前の設定と矛盾するとか、そういうレベルの話ではない。おそらく製作途中で、脚本に大きく手が入れられたのだろう。その結果、映画の序盤と中盤以降で話の前提が食い違うようになってしまったのだ。
とはいえ僕はこの映画が気に入っている。この映画はチェン・ボーリン演じるモウの視点ではなく、トン・ヤオ演じるヒロインの視点から観るべきなのだ。そしておそらくこの映画は、素直にヒロインに自分を同化できる客層(つまり若い女性たち)をターゲットに作られている。
男性であるモウの視点から見ると気づきにくいのだが、これはわかりやすい三角関係のドラマなのだ。ヒロインは自分の近くにいる年上の肉食男子に恋をして傷つき、年の近い草食男子に癒される。でもそこに現れたのは、かつて自分を傷つけた肉食系男。癒されたヒロインは「黙って俺様に付いてこい!」という肉食系か、「君を優しく包んであげるよ」という草食系との二者択一を迫られる。どちらに付いていくべきなのかは、人によって考え方が異なるだろう。でも若い女の子は、自分の知らない世界に連れて行ってくれそうな肉食系に結局は心惹かれるのかも。ヒロインが中国本土出身というのが物語のポイントかもしれない。
(原題:台北飄雪)
DVD:台北に舞う雪
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