マイマイ新子と千年の魔法

2009/09/25 松竹試写室
昭和30年の山口県防府市国衙の風景をリアルに再現。
少年少女たちの友情と冒険の物語。by K. Hattori

Maimai_2  高樹のぶ子の自伝的な小説「マイマイ新子」が原作。昭和30年の山口県防府市国衙を舞台に、千年前の故郷の風景やそこに暮らす人々の姿に思いを馳せる主人公の小学生・新子と、家族や友人たちの交流を描く。昭和30年代を舞台にしたアニメと言えば『となりのトトロ』(1988)がすぐに思い出されるのだが、本作『マイマイ新子と千年の魔法』はちょうどその裏バージョンのような筋立て。『トトロ』は東京から郊外の田園地帯に引っ越してきた少女が森の妖怪に出会う物語だったが、『マイマイ新子』も東京からひとりの少女が田舎町に引っ越してくるところから始まる。『トトロ』も『マイマイ新子』も、引っ越してくる少女の家庭には母親がいない。そして父親は「先生」だ。これだけでも『マイマイ新子』は『トトロ』の裏バージョンに見えるではないか。

 昭和30年代をノスタルジックに描いてヒットした映画には、『ALWAYS 三丁目の夕日』とその続編もある。『トトロ』にせよ『三丁目の夕日』にせよ、映画の中では昭和30年代という時代が一種の理想郷のように描かれている。人々には人情があり、未来には夢がある。しかしこうした昭和30年代の描写を、嘘っぱちだと批判する人たちも多い。戦争が終わってまだ10年余り。世の中は貧しくて、不潔で、社会的な格差も大きかった。日本が本格的に高度経済成長の階段を上っていくのは、昭和39年の東京オリンピック前後から。日本中が一億総中流を自認するようになったのは、昭和40年代後半になってからなのだ。それ以前の日本には、まだまだ暗い部分が残っていた。明るく無邪気な子供の世界にも、ぽっかりとエアポケットのような暗闇が口を開いたりする時代だった。

 『マイマイ新子と千年の魔法』は、そんな昭和30年代の暗さを物語の中に取り込んでいる。その中でも最たるものが「死」だ。『トトロ』や『三丁目の夕日』にも間接的な形で「死」は描かれていたが、それをファンタジーのオブラートに包んで観客が直接見ることの出来ない場所に隠してあった。しかし『マイマイ新子』の死はもっとあからさまだ。例えば『トトロ』と同じように父親と共に田舎に引っ越してきた少女だが、彼女の母は山奥の療養所に入院しているわけではなく、実際に死んでいるのだ。そして映画の終盤では、もっと強烈な形で主人公たちに「死」の影が襲いかかる。この映画の中には死だけではなく、貧しさ、差別、暴力などが描かれる。しかし子供たちはそうした世界の暗い裂け目を自分の力で飛び越えて、たくましく生きていく。生きていくしかない!

 よい映画であり一見の価値はあるが、これが『トトロ』や『三丁目の夕日』のように広く受け入れられるかどうかは微妙なところ。それはジブリ作品の中で、『おもひでぽろぽろ』の人気がイマイチ伸び悩んでいるのと同じこと。内容がリアルすぎて、観ていてもあまりワクワクできないのだ。

11月21日公開予定 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:松竹 宣伝:ライトスタッフ、ブースタープロジェクト
2009年|1時間33分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.mai-mai.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:マイマイ新子と千年の魔法
サントラCD:マイマイ新子と千年の魔法
主題歌「こどものせかい」収録CD:trick & tweet(コトリンゴ)
原作単行本:マイマイ新子(高樹のぶ子)
原作文庫:マイマイ新子(高樹のぶ子)
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