携帯彼氏

2009/09/07 松竹試写室
携帯アプリの恋愛シミュレーションが人を殺す。
恐くはないが、面白く観られる映画。by K. Hattori

Kkare  携帯ゲームが人を殺す。人気の携帯向け恋愛シミュレーター「携帯彼氏」は、髪型や顔立ちなどを自分好みにカスタマイズした仮想の恋人を携帯電話にダウンロードし、メールやチャットでバーチャル彼氏との疑似恋愛を楽しむアプルケーション。ゲーム画面には互いの親密度を示すラブゲージという点数表示があって、これが100%か0%になればゲームは終了。ところがゲーム終了と同時に、ゲームをプレイしていた人間が次々に死んでいくというのだ。

 高校生の里美と由香は、自殺した同級生の死の真相を探るため、彼女が死の瞬間まで握りしめていた携帯電話から「携帯彼氏」を転送する。死の直前まで「彼氏」と交わしていたメールやチャットに、何らかの手がかりがあると考えたからだ。しかし転送された「彼氏」は何も答えを教えてくれない。間もなく里美のバイト先の先輩がこの「彼氏」を無断転送。その直後に、先輩は事故死してしまう。里美は警察に「携帯彼氏」と被害者たちの関係について説明するが、刑事たちはまるで取り合わない。だが被害者の携帯から「彼氏」をコピーした女性刑事は、ゲーム終了と同時に同僚刑事の目の前で自殺した……。

 ホラー映画というと感覚的な情念の世界がベースになっているものだが、この映画のユニークな点は情念の世界をベースにしながら、そこに理数系の意匠を巧みに織り交ぜているところだ。携帯アプリをダウンロードする、アバター(彼氏)を転送する、サーバからデータを削除する、別種のデータプログラムを転送させるなど、やっていることがいちいちロジカルなのだ。劇中では「携帯彼氏」の会話やチャットの仕組みについて、登場人物たちが説明しているところもある。もちろんホラーと電子機器の組み合わせには『リング』シリーズの呪いのビデオという先例があるし、携帯電話なら『着信アリ』という人気シリーズも存在する。しかしこの『携帯彼氏』はそれとは何かが違う。「呪い」が憑依する対象がハイテク製品だというだけではなく、「呪い」の質そのものがハイテク仕様なのだ。ここでは「呪い」がバラバラのパーツに分解され、それぞれが独自のパラメーターを持った数値や記号として存在している。情念的なものであったはずの「呪い」が、感情を一切排除した、きわめてロジカルなものに変換されているのだ。

 そもそもこれは「呪い」なのか? むしろこれは「悪意」と言った方がいいかもしれない。死んだ者たちの「悪意」が電子ネットワークの中を漂流し、流れ流れた末にどこかに再びひょっこりと顔を出す。これは結構、実際に起こりうる話なのではないだろうか。世界中に流布しているブログやプロフの個人データ、個人のつぶやき、写真の数々。これらは当人たちが死んだ後も、ネットの中のどこかに漂い続けて消えることがない。何年たっても、何十年たっても、それは幽霊のようにネットの中に生息し続けるのだ。

10月24日公開予定 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:GONZO、シナジー 宣伝:フリーマン・オフィス
2009年|1時間42分|日本|カラー
関連ホームページ:http://k-kare.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:携帯彼氏
主題歌CD:LφST(弓木英梨乃)
原作:携帯彼氏(kagen)
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