イメルダ

2009/09/03 TCC試写室
フィリピンの独裁者だったマルコス大統領の妻イメルダ。
その素顔は少女のように天真爛漫だ。by K. Hattori

Imelda  首相辞任辞任の記者会見で「他人事のようにというふうにあなたはおっしゃったけれども、私は自分自身を客観的に見ることはできるんです。あなたとは違うんです!」と言い切ったのは福田康夫首相だったが、この映画で今もなおフィリピン政界に睨みをきかせるイメルダ・マルコスの姿を見て「政治家はどの世界も同じだなぁ」と思ってしまった。イメルダはカメラの前でこう言う。「マスコミは一面的すぎるわね。物事はいろいろな方向から見て初めて真実がわかるけど、そうできる人は少ないわ。私はそうした物の見方が出来る数少ない人間よ」。つまり彼女はここで、「マスコミと違って私は物事を客観的に見ることができるんです」と言っているわけだ。ふむふむ、確かにそういう解釈は可能だろう。しかしこの映画を通して浮かび上がってくるイメルダの世界は、極端に主観的なものでしかない。もちろんこれは映画を観ている僕自身が、「一面的すぎる」と解釈することも出来なくはないのだけれど……。

 イメルダは1965年から1986年まで、20年間に渡りフィリピンのファースト・レディ(大統領夫人)だった。夫のフェルディナンド・マルコス大統領は冷戦構造の中でアジア最大規模の米軍基地を抱えるフィリピンの地政学的な役割を熟知し、アメリカ政府から多額の経済援助を引き出して国の発展に寄与した。だが戒厳令を布告して独裁体制を作り上げ、民主化を求める政敵たちを海外に追放したするなどの強権的な政治姿勢は国内外の反発を招く。そして1983年、反マルコスを訴える民主化運動のリーダーだったベニグノ・アキノが、亡命先のアメリカから帰国と同時にマニラ空港で暗殺されるという事件が起きる。これが国民の怒りに火を付けて、3年後の大統領選挙でマルコスは敗北。(新大統領は暗殺されたベニグノ・アキノの未亡人コラソン・アキノだった。)大統領府に押し寄せる市民たちを恐れたマルコスはアメリカに亡命した。マルコス一族は在任中に多額の国家財産を横領着服したと言われ、アメリカ亡命時にも大量の現金や貴金属類を持ち出している。

 マルコス元大統領は結局ハワイで余生を過ごし、1989年にホノルルで亡くなっている。これでマルコス一族の物語は終わったかと思いきや、じつはその後、マルコス一族はフィリピンの政界に復帰しているのだ。イメルダは大統領選に落選した後、下院議員に当選。彼女が任期を終えた後は、息子が知事、娘は国会議員になっている。

 イメルダは今でもフィリピンで大人気だ。車に乗って移動すれば人々が群がって写真やサインをねだり、握手攻めになる。日本でも先日の衆議院選挙で、かつて大人気だった首相のジュニアが当選し、自民党の凋落を招いた安部・福田・麻生の元首相たち3人は当選した。人々は権力者を求め、権力者はその権力をなかなか手放さない。映画『イメルダ』の中に、僕は日本の今の姿を観てしまうのだ。

(原題:Imelda)

9月12日公開予定 ポレポレ東中野ほか全国順次公開
配給:ユナイテッド・エンタテインメント
2004年|1時間43分|フィリピン、アメリカ|カラー、モノクロ
関連ホームページ:http://www.imelda.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:イメルダ
関連DVD:ラモーナ・ディアス監督
関連書籍:イメルダ・マルコス
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