バーダー・マインホフ

理想の果てに

2009/06/11 シネマート銀座試写室
1970年代に世界を震え上がらせたドイツ赤軍の誕生と死。
これはひとつの時代が生み出した悲劇だ。by K. Hattori

The Baader Meinhof Co  1960年代から70年代にかけて、世界中の若者たちは怒っていた。1960年代に大学の民主化を求めて学生たちが声を上げ始め、これがまたたく間に政治的な運動へと拡大していく。ベトナム戦争、公民権運動、文化大革命、五月革命、ソ連によるプラハの春弾圧など、世界で起きていた政治的事件と共鳴し合うように、若者たちは既存の社会制度を打破するための反体制運動に傾斜していく。戦後ベビーブーム世代の若者たちはその数とエネルギーで大人たちを圧倒し、体制側はこれら若者たちの反乱に対して権威的で暴力的な圧力で応じようとする。相手が暴力を振るうなら、暴力で対抗するしかない。警棒には投石で、ガス弾には火焔瓶で、拳銃には爆弾で対抗するのだ!

 こうした中からドイツ赤軍(RAF)は生まれた。ドイツ赤軍は創設者たちの名前を取って、バーダー・マインホフ・グループとも呼ばれている。この映画はシュテファン・アウストの同名ノンフィクションを原作に、『クリスチーネ・F』や『ブルックリン最終出口』のウリ・エデル監督がドイツ赤軍の発足から創設者たちの死までを描いた実録映画だ。脚本と製作は、『ヒトラー 最後の12日間』『パフューム ある人殺しの物語』のベルント・アイヒンガー。アウストは46年生まれ、エデルは47年生まれ、アイヒンガーが49年生まれ。彼らはドイツ赤軍のメンバーたちと同世代であり、この映画は彼らが生きた時代をありのままに再現しようとするものになっている。上映時間は2時間半だが(完全版は3時間あるらしい)、そこに1968年から1978年までの10年間を圧縮。放火、脱獄、軍事訓練、銀行強盗、爆弾テロ、誘拐殺人、裁判闘争、大使館占拠、ハイジャックなど、10年間に起きた大きな事件がぎっしりと詰め込まれていて見どころ満載。登場人物が膨大な数になるが、映画はドイツ赤軍の全体像を俯瞰せず、リーダーのウルリケ・マインホフ、アンドレアス・バーダー、グドルン・エンスリンら3人の視点から描いていくため大きく混乱することはない。

 もはやこの映画の登場人物たちに、思想的な共感を抱く人は誰もいないと思う。時代は変わったのだ。社会の仕組みは性急な暴力ではなく、即効性はなくとも政治の力で根気よく少しずつ変えていくしかない。だがそんな「政治の力」の意味が明らかになったのも、1970年代の若者たちが牽引した武装革命路線が、人々の共感や支持を失い挫折したからだとも言える。この映画を観る人たちは、そんな歴史の結果を知っている。マインホフやバーダーやエンスリンたちが行き詰まってしまうことを知っている。これは事前に失敗が決定づけられている青春ドラマであり、たとえ主人公たちがテロリストであったとしてもこれは「悲劇」なのだ。出演者たちは自らの愚かさゆえに自滅する悲劇の主人公たちを、等身大の人間としてリアルに演じている。

(原題:Der Baader Meinhof Komplex)

今夏公開予定 シネマライズほか全国ロードショー
配給:ムービーアイ
2008年|2時間30分|ドイツ、チェコ、フランス|カラー|ヴィスタサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.baader-meinhof.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:バーダー・マインホフ/理想の果てに
DVD (Amazon.com):The Baader Meinhof Complex
サントラCD:The Baader Meinhof Complex
サントラCD (Amazon.com):The Baader Meinhof Complex
原作(ドイツ語):Der Baader-Meinhof-Komplex
原作(英訳):The Baader-Meinhof Complex
原作(英訳):Baader Meinhof: The Inside Story of the RAF
関連DVD:ウリ・エデル監督
関連DVD:マルティナ・ゲデック
関連DVD:モーリッツ・ブライプトロイ
関連DVD:ヨハンナ・ヴォカレク
関連DVD:ブルーノ・ガンツ
ホームページ
ホームページへ