ダークナイト

2009/06/02 早稲田松竹
バットマンという存在の意義そのものに疑問を投げる作品。
悪役ジョーカーの強烈な個性に脱帽。by K. Hattori

ダークナイト 特別版 [DVD]  前作『バットマン ビギンズ』の世界観をそっくり継承する続編だが、バットマンことブルース・ウェインの持つ矛盾がより掘り下げられている。それを浮き彫りにしていく人物が、バットマンの宿敵ジョーカーだ。バットマンとジョーカーは写真のネガとポジのような対象関係にある。一方は悪と戦う正義の味方で、一方は邪悪な犯罪者という違いはあるが、その存在は共に法の保護の外にあり、正体不明で神出鬼没。恐怖で悪と対決しようとするバットマンに対し、ジョーカーは恐怖で市民を震え上がらせる。ゴッサムシティに巣くう巨大な悪の存在が、バットマンとジョーカーの存在を許しているという点も同じだ。ふたりの違いはどこにあるのか? バットマンが愛や正義という「幻想」の上に立って活動しているのに対して、ジョーカーは徹底したリアリストなのだ。リアリストだから、金に執着する。しかし金に対する幻想も持っていないので、金に執着しすぎることもない。バットマンがジョーカーに手こずるのは、バットマンがリアリストに成りきれないためだ。

 この映画はバットマンが頼りとする価値観が「幻想」に過ぎないことを、あからさまに暴いてしまう。その象徴が、レイチェル・ドーズとの関係だ。ブルース・ウェインは自分がバットマンを引退しさえすれば、彼女が自分と結婚してくれると信じている。レイチェルは自分を愛してくれていると信じている。だがそれが幻想に過ぎないことを、観客は映画の最後に知らされるのだ。なんたる皮肉か。映画の最後にバットマンはジム・ゴードンに言う。「たとえ事実でないとしても、人が生きるためには希望が必要だ。それを守るために、自分は存在するのだ」と。だがそう言っているバットマン本人が、「レイチェルの愛」という幻想にすがっていることに本人は気づいていない。幻想である「レイチェルの愛」に支えられて、バットマンは今後も命がけの戦いを続けるのだろう。彼の中ではハービー・デントこそ幻想を信じて死んでしまった哀れむべき男なのだが、何のことはない、実際にはハービー・デントこそがレイチェルの愛を勝ち得た男であり、バットマンは愛の対象を失った敗残者なのだ。彼を愛している者がどこにいる? 執事のアルフレッドか? 部下のルーシャス・フォックスか? どちらも老い先短い老人ではないか。いずれバットマンの周囲には、彼を愛してくれる人が誰もいなくなるだろう。それでもバットマンは、「レイチェルの愛」の思い出に殉じるように戦い続けるのだろうか?

 しかしレイチェルの愛が本当にデントに向かっていたのかよくわからない面もある。レイチェルは最後の最後に、バットマンが自分を救ってくれるはずだと信じていたのではないか? 彼女が最後に見せた表情、映画の観客以外誰も見ることの出来ないその表情の中に、僕は彼女のブルースへの想いを感じてしまうのだ。しかし真実は、爆発の炎の中に消えた。

(原題:The Dark Knight)

2008年8月9日公開 全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2008年|2時間32分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル、SDDS、STS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/thedarkknight/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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